小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

聞く子の約束

INDEX|20ページ/51ページ|

次のページ前のページ
 

 男性が指輪をするのはどうかと思っていたが、キクちゃんの見解は、「絶対必要」。理由としては、おしゃれのためとか、リッチさのアピールとかではなく、場の演出に欠かせないものだと教えてくれた。
 例えば、カウンターで注文して、バーテンが作ったカクテルを彼女の前に出させる時に、彼女を指差すのではなく、カウンターの上を軽く触る程度のほうがスマートだというのは僕でも解った。でも、もしその手にさりげなく指輪がはめられていたら、その動作の中でバーテンも気付くだろうし、カップルとしてスマートに見えることだろう。
 僕は道端にシートを広げて、アクセサリーを売っている外国人から、派手目のシルバーの指輪を何点か購入したりした。

 僕はカクテルに関しては、まったくと言っていいほど知識を持っていなかったけど、キクちゃんはいつもカクテルを好んで飲んでいた。
 学生同士で行く店のカクテルは、種類は少なく、サーバーからグラスに直接注ぐだけの簡単なものが多い。本格的な店では何でもバーテンが作ってくれるので、それなりの経験がないと注文するにも躊躇する。
 キクちゃんは、店に入って1杯目のカクテルは、男性が注文するもんだと言う。爽やかさ、アルコールの強さ、色、香り、花言葉ならぬカクテル言葉などを本で勉強した。
「何を飲みますか?」
なんて聞いてはいけない。その日の彼女の気分を察して選ばなくてはいけない、難しいテストだった。
 その後、カクテルを飲みながら答え合わせが始まり、
「今日は暑かったから、さわやかなミント系にしてみました」
「キクちゃんのテンションが高かったので、アルコールの強いのにしてみました」
などと、これを選んだ理由を説明すると、お姉さんはいつも、
「ふーん」
と言いながら添削してくれた。
 
 結局は何をオーダーしてもOKなんだけど、気が利く男を連れているということが、何より重要なのだとか。
 女性の側からすれば、いい加減な男を連れてきて、お金も払わされていると思われるより、エスコートが完璧な男連れだと、まず周囲からワンランクアップするし、会計時に女性が支払うことで、ツーランクアップする優越感なのだという。
 僕は彼女のアクセサリーに過ぎなかったが、こんな時のキクちゃんは、とても大人に見えて格好よかった。大人ならではの感覚を知る度に、身震いするような気持ちで吸収していった。

 なんとなく方向性がはっきりと分かってきたので、服のセンスも彼女に合わせて、革のジャケットなどを無理して買ってみたりした頃のことだった。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)