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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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聞く子の約束

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第1章 出会いから



「あのう。貿易関係の求人について知りたいんですけど。」
「何学部の学生?」
「短大部の夜間学生です。木田博之と言います。」

 バブル全盛期の頃の話である。僕は短大に通っていた。男子としては珍しい学歴かもしれないが、目的がはっきりとしていた。それはその短大から系列の大学に、編入学するためだ。
 当初からその大学に入りたかったが、残念なことに2年連続不合格。それで一縷の望みをかけ、併願で滑り止め合格の付属短大部卒業後に、大学編入試験突破を目指した訳だ。
 その短大は夜間授業のため、昼間働いて夜に通学しながら、編入試験のための勉強も真面目にした。しかし、編入試験は十名ほどしか合格しない狭き門で、短大部男子のほとんどが受験するし、他の大学や短大からの受験生も多いので、1年後に付いては不安だらけだった。それでクラブの先輩の勧めもあり、万が一のために就職活動もしておくことにしたのだった。

 普段は昼間にキャンパスを訪れることはなかったが、その日は就職活動のため、少し早く夕方に来て、学生課の就職資料室を訪れた。棚が立ち並ぶその部屋は、十人ほどの学生でいっぱいになるほど狭かったが、まだ窓が明るいその時間、僕には新鮮に感じられて窮屈に思わなかった。

「短大の求人なら女子は結構いいのよ。大卒より選択肢が豊富なくらい。でも男子の求人は少ないのよね。」
「やっぱり、そうですよね・・・」
その日、進路相談で対応してくれたのは、ピンク系のスーツを着た清楚な女性だった。同い年くらいかと思わせる顔付きで、僕は、
『アルバイト学生かな。』
と思ったくらいだ。
 彼女は終始ニコニコしており、初対面なのに、距離感をまったく感じさせない話し方が好印象だった。

 後に判ったことだが、彼女の名前は、森山貴久子、6歳年上でキャンパスのマドンナ的な職員であった。僕はこんな女性が昼間の大学職員にいたなんて、まったく知らなかった。

「本当はまだ就職志望じゃなくって、外国語学部への編入試験を受けるつもりなんですが。」
こう言うと、彼女は急に力いっぱいの笑顔になり、少し顔を近付けて、
「そうなの。じゃ、そうした方が絶対いいと思うよ。」
と言った。
 将来について真剣に考えたことがない学生にとって、その言葉、いや、その時の彼女の表情は、何かを決断させるには最も効果的だった。

 この日は、2〜3の資料をもらう程度で帰ったが、彼女のことが脳裏に焼き付いていた。それからも数回、その職員さん目当てで、資料室を訪れたりした。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)