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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の約束

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 付き合っている知子には、キクちゃんのことはあまり話していなかった。(男女の関係を意識することなく、キクちゃんとは仲良くしておいて損は無い)と思える打算的な考えと、(ひょっとすると、キクちゃんとの関係が深まるかもしれない)という下心もあったのは確かだ。それでも後ろめたい気がしていたのではなく、歳の離れたお姉さんを、本当に恋愛対象としては見ていなかったので、特に問題があるとは思わなかったのに、やはり秘密にしておく方が何かと無難と考えていた。
 実はこの感覚が正解で、キクちゃん自身も多少の掛引きを楽しむくらいに考えていたのだと思う。

 なので、一緒に食事に行く、もちろん一緒にお酒も飲むというのも、ハードルが下がって、僕は、(もっと誘ってほしい、こちらからも誘いたい)と思うようになっていった。
 この頃は毎週末、誰かと遊びに行っていたし、飲み会のようなものも多かった。サークルやクラスのコンパに参加することもあり、その後誰かのアパートに集まって、朝まで飲むということも普通だった。そういったローテーションの中に、キクちゃんとの食事を入れておいても、泊りになるほどのことではないので、特別なものという意識はなかった。

 そして試験監督のバイト上がり以外でも、キクちゃんと夜に遊びに行く約束をするようになった。
 異人館でのデート? 以降、僕はキクちゃんに奢って貰うのが、当たり前のようになっていった代わりに、キクちゃんを満足させられるように、彼女のエスコートに力を注ぎ始めた。

 ディナーに行くには、授業が終わってから出かけるので、彼女の終業時間までキャンパスで時間を潰してから、一緒に下校する訳だけど、そこではキクちゃんの車には決して同乗させてくれなった。やはり、大学から一緒に帰るところを見られるのはまずいのだろう。僕は彼女の車の後をバイクで追っかけて、彼女のマンションの駐輪場で、シャワーを浴びて着替えて来るキクちゃんを、暫く待ったものだ。

 食事と言っても飲みに行くのが目的なので、彼女の化粧はやや濃かった。大学ではいつもパステルカラーのスーツという清楚なイメージから、多少派手目なバブル期のイケイケお姉さんに変身していて、ミニスカートで足を組むキクちゃんを知っているというだけで、なかなか魅力的な経験だった。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)