小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「時のいたずら」 第十一話

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
しつこく聞くのも大人げないから優斗はあれの続きの話はやめた。

「なら、途中で温泉にでも入って美味しいものを食べよう。ちょっと寄り道になるけどお伊勢さんもいいよね?」

「伊勢神宮ですか?お参りしたことが無いので行ってみたいです。よろしいのですか?」

「よし決まりだ。泊りは鳥羽だな。水族館にも行こう」

「水族館?」

「ああ、海の魚がたくさん泳いでいるんだよ。それが見れる。イルカのショーもあるしね」

「イルカは見たことがありません。魚ですか?」

「いや、正確には哺乳類だよ。赤ちゃんを産む仲間。魚は玉子だろう?どちらか言えば人間に近い海の生き物」

「楽しみです。今の人は楽しみが多くて幸せですね。争い事もないし。食べることにも事欠かないし。わたくしが居た頃は町から少し外れると本当に貧しい家が多くて子供を外に出していましたからね。わたくしもその中の一人。式部様に仕えることが出来たのは特別でした。優斗さまに救われたことも藤にとっては偶然ではなく求めていたものだったと嬉しく思っています」

「藤は綺麗だし素直で性格もいいから認められたのだろう。運とかツキとかではないよ」

「嬉しいお言葉。身に余ります。優斗さんはご両親様もご立派な方ですし、ご自身もお優しくて男らしいので藤には勿体ない殿方だと思っております」

「男らしい・・・手で触ってそう思った?」

「すぐにそのようなことを言われますね。藤はそのようなことを求める女ではございません」

「そうしておこう。じゃあ、明日は楽しみだよ」

「何か腑に落ちませぬが、藤も楽しみにしております」

布団一枚だけ残していたので二人は寄り添うようにして眠った。優斗がまだ我慢できているのは藤への心遣いなのか、この先自分の妻になることで焦りの気持ちが無くなったからであろうか。

翌朝目が覚めたとき、すでに起きて支度を済ませている藤の姿を見て優斗は母のようだと感じた。いつも自分より遅く寝て早く起きてご飯の支度や弁当を作ってくれていた母を思い出したのだ。

「ゆっくりと寝ていればいいのに。何もすることないから」

藤はニコッと笑いながら返事をする。

「いいえ、こうして起きて優斗さんを迎えることがわたくしには嬉しいのです」

「母のようだな・・・もうすでに」

「そうですか?女として当たり前のことだと思っておりますけど」

優斗は起き上がるとシャワーを浴びて、着替えた。
車で伊勢まで3時間はかかる。昼前には着きたいから早々に準備をして朝食は喫茶店でモーニングをしようとアパートを出た。
振り返るその住まいは今日が最後の見納めとなった。