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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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蜜を運ぶ蝶

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浅木蝶子で検索するとNPO法人『飛びたて』が表示された。確かに高校中退者やニートの若者を支援しているようであった。
 ぼくは親の残した不動産を管理するだけで、毎月200万円ほどの収入があった。大学も勉強をした実感はなかった。卒業証書があればよかった。どこかに就職するつもりも無かったからだ。恵まれすぎていたのかもしれない。ぼくの周りの友人たちは、競馬で1日に100万円使う者もいたし、株の取引で1日100万単位の損得をしている者もいた。金の単位に麻痺していたのかもしれない。だから、教祖の浅木に500万円渡したことも良いことをしたとかの気持ちは湧かなかった。きちんと寄付の領収書を貰えば経費になるが、ぼくは株で損をしたのだと思い込むことにした。もちろん僕は株は持っているが信用取引はしない。だから現実にはそんな損を出すことはないのだ。
 ぼくは高校時代に獣医になりたいと言っていた友人を思い出した。彼は成績が悪くてとても受かる見込みが無かったが、動物が好きだった。『そうだ』と僕は思いついた。獣医の学校を作ろう。誰でも入学できる学校。でも、認可を受けるのは大変なのだと知った。ぼくが持っている資産だけではどうにもならない。動物が好きな人が動物の医者に、勉強が出来なくても、なれるだろう。ぼくは本気で考えた。
 半年ぶりに浅木の店に寄った。
「お電話もしないでごめんなさい」
彼女は最初に言った。500万円渡した後何の音沙汰も無かった。ぼくも本気だった彼女の体を求めるつもりも無くなっていた。妻への今までの感謝めいた気持が愛に変わり始めていたのだった。だらしない僕を立てながら、子供たちを育て、社会人に育てたこと。還暦を過ぎてもまだ女遊びをしている自分が恥ずかしく思えたのだ。
「獣医の学校作ろうと考えたが断念した」 
「諦めてはだめ、最後まで頑張らなければ」
「簡単に考えすぎた。頭悪いって、数学や英語が出来ないと、そうなちゃうなんて、おかしいよ」
「そうよね、私はバレーボールで特待生で大学まで行った。だから、大学出てるって言うと頭いいように思われて、得することもあるのよね」
「僕と同じだよ」
「頭いいと許される。確率の問題かも、外科医だって、手先が器用だったら、なれるんじゃないかしら」
「僕もそう思った。動物だったら、獣医になりたいのだったら、6年でなく10年掛ってもいいと思った」
「何かをするって、大きな力がいる」
「君は立派」
「やりたいこといっぱいあるのにやれることは本当に小さいの」
「僕に出来ることは結局。お金の援助だけなんだな」
「うれしい。でも、もういいわ。わたし、もう、飛ぶことは出来ないから」
その言葉を残して彼女は席を立った。僕は電車の時間が迫っていたので、そのまま会計を済ませ車を頼んだ。彼女が就いたばかりの席を立ち僕に挨拶をしようとしたが、ぼくは手で『いいから』と合図した。


作品名:蜜を運ぶ蝶 作家名:吉葉ひろし