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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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(第四章)ハンターの到来(4)-スパイ嫌疑③



 美紗は、自分が雑談のネタにされているのも気付かず、部長室の入り口に立ち尽くしていた。ドアが半開きになっているのは、部屋の主が在室していることを意味している。しかし、松永に持たされた書類を届けるだけのことが、理由もなく怖くて、ドアをノックできない。
「ああ、鈴置さん。何?」
 美紗の姿に気付いた日垣が、先に声をかけた。聞きなれた物静かな口調だった。美紗が、「入ります」と挨拶して部屋の中を覗くと、大きな執務机の向こうに、見慣れた優しげな顔があった。前日の彼とはあまりにも違う姿が、美紗をひどく動揺させた。
「あの、……故意じゃ、ないんです」
 無意識のうちに、そんな言葉を漏らしていた。
「本当に、出そびれただけなんです」
「何の話?」
 日垣は静かな笑顔のまま応じた。それが、白々しくも、空恐ろしくも感じる。
「落としたものを探していたら、人が入ってきたのに気が付かなくて……」
「昨日、私が言ったことを覚えてるか」
 上官の声が急に低くなる。しかし美紗は、自分が何をしに来たのかも忘れて話し続けた。
「すぐ出ようと思ったんですけど、日垣1佐のお話が始まってしまって、キリがつくのを待っていたら、相手国側の出席者の中にCI……」
「鈴置さん!」
 日垣は席を立ち、大股で美紗に歩み寄った。柔らかだった眼差しが、いつのまにか射貫くような鋭い目に変わっていた。美紗は息を飲み、悲痛な声を出した。
「……知らなかったんです。あんな話をすることになっていたなんて」
「その件は……」
「内容はほとんど聞いていません。プロジェクト・オフィス(準備室)の方々の顔も、全然見ていないんです」
「それより、松永に何か頼まれて来たんじゃないのか。そっちの話をしてくれ。何か持ってきただけなら、置いていってくれればいい」
「本当に何も知らないんです。私は何もしてな……」
「昨日のことは指示があるまで口にするなと言ったはずだ!」
 涙目で訴え続ける美紗を大声で遮った日垣は、彼女が持っていた二つのバインダーを奪い取り、中を一瞥した後、両方とも未決箱に放り込んだ。そして、机の上に置いてあった別の書類を手に取ると、険しい顔で美紗のほうに向きなおった。