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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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「秘区分の低い前半のセッションにメモ取りを入れるかどうか、迷ったんだが……。同席していた地域担当部の人間にやらせるより、君にまとめてやってもらうのが一番スムーズだろうと思ったんだ。若い君なら、高峰の事情に勘づくこともないだろうし、部内に知り合いも少ない。高峰も、君から会議内容を一括で報告してもらうほうがやり易いだろうと……」
 未経験だからこそ、鈴置美紗が役に立つと思われた。しかし、二カ月ほど前に直轄チームに来た新入りは、かえって想定外の問題を引き起こした。
「私があの場でもう少し気を配るべきだった。ああいう仕事、君は初めてだったのにな」
「すみません。そんな事情があったなんて全然知らなくて……」
「知らせるわけにはいかなかったしね」
 すっかり意気消沈した美紗に、日垣はクスリと笑いかけ、そして、急に真顔になった。
「ちゃんと聞いてるじゃないか。あの状況で」
美紗は、きょとんとした顔を日垣に向けた。彼女を見返す切れ長の目が、すっと鋭くなる。
「君がテーブルの下に隠れている時に、『お客』と私たちが話していた内容だよ。統合情報局が国内治安の問題に関わる話」
 日垣は、また右手で髪をかき上げると、少し意地悪そうに口角を上げた。
「昼間は確か『話の中身はほとんど聞いていない』というようなことを言っていたように記憶しているが? これは完全に騙されたかな。君のほうが私より一枚上手らしいね。うっかり全部喋ってしまった」
 美紗は、はっと口元を押さえた。しばらく固まったあと、急にガクガクと震え出した。一方の日垣は、声を立てて笑った。言い訳の言葉を探すのも忘れている美紗を見る眼差しは、優しげな色に戻っていた。
「もし情報保全隊を相手にそういう発言をしたら、一巻の終わりだ。後で部内調査が入る可能性はまだ残っているんだから、気を付けてもらわないと」
 美紗は、顔面蒼白になって何度も謝った。これから、互いの進退に関わる秘密を、目の前に座る男と共有することになる。自分はその重圧を抱えきれるのか。新たな不安が足元から這い上る。
 両手で顔を覆う美紗を、日垣はしばし見つめた。低くくぐもった声が、震える黒髪を静かに撫でた。
「私のほうこそ……、君に謝らなければ」