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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅲ

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 日垣の問いに、美紗はただ首を横に振って答えた。喉がカラカラに乾いて、声が出なかった。組織の名称から抱くイメージは、所詮はフィクションの世界が作り出したものに過ぎないと思っていた。統合情報局の仕事にもそこに勤める人間にも、本当に表と裏があるなどとは、想像もしていなかった。
「うちの部で例の準備室の存在を知っているのは、私と比留川と高峰だけだ。ただ、比留川は……」
 日垣は、そこで言葉を切り、周囲の様子をうかがった。課業時間中にもかかわらず、二人のいる懇談スペースの周辺は、意外と人の往来が多かった。
「取りあえず、直轄チームの連中を巻き込まないでくれ」
「どういう……こと、ですか?」
 美紗の掠れた小さな声は、二人の傍を歩き過ぎる人々の話声や足音でかき消された。日垣は軽くため息をつくと、制服の胸ポケットから手帳を取り出した。そして、何かを素早く書き付けると、そのページを破り取った。
「どうも部内ではかえって話しにくいな。もう少し落ち着ける場所に心当たりがあるから、そっちで話そう。今日、この後、時間とれるか?」
 美紗は黙って頷いた。
「そこの駅のA4出口付近に…、そうだな、七時頃来てもらえるか。着いたら下に書いた番号にかけてくれ」
 言い終わると、日垣は、美紗の返事を待たずに立ち去っていった。