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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 三、月の章

INDEX|35ページ/53ページ|

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 もう一度声を上げようとしたそのとき、デヌタは初めて、あることに気がついた。
(そういう、ことか……!)
 月神の姿がない。 
 あの水流は生命神を狙って起こされたのではなかった。「月」を奪い去るために――。
「すぐに道を開け、セト!」
 声を上げ、デヌタはその手に自身の聖杖を握る。生命神に代わり神殿中の神々に呼びかけるために。
 セトが未だ残り火のくすぶる岩を地中に戻すと、デヌタは長い黒髪をなびかせ素早くそこを横切っていった。
「……」
 力を用いたあともしばらく、セトは地に手を付いたまま、そこに吸い付くようにじっと身をかがめていた。
 ――この「感覚」は、何だ……?
 いま崩された岩石を地中に沈めたとき、腕を伝い流れ込んできたもの。
 すぐ目の前に表されていた、しかしずっと遠くから届けられたもの。
 あのような得体の知れない力を、知るはずがない。そのはずなのに……、
 なぜだか、ひどく、懐かしい。
 その正体がいったい何であるのかを、しかしセトは、決して知ることはないのだった。
 

   下「かけら」へ続く