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レイドリフト・ドラゴンメイド 第11話 幻の神力

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自らの星をスイッチアと称するチェ連人。
 チェ連人を認めず、地の底、深海や空の上で隠れ住んでいた地底竜、海中樹、天上人の三種族。
 彼らは自らの星を奪い合う歴史に、踏み込もうとしていた。
 そんな彼らも、地球人と魔界ルルディ、女神ボルケーナの仲裁により、和解の席にやって来た、はずだった。

 チェ連人も三種族も、互いを許し合うことはなかった。
 地球人とチェ連人、すなわち人を認めることのなかった三種族。
 そんな彼らの主観では。
 ルルディ騎士団が使う、液体のように垂れ下がる魔法火に包まれたかと思ったら、今度はその火が燃え上がり、解放されたように感じた。
 だが、解放されたわけではなかった。
 足首から下は動かない。未だに拘束されたまま。
 そしてまた、ボルケーニウムによる人間の姿が与えられていた。
 今度は天上人の輝く姿も、地中竜の鉄の羽も、海中樹の宝石もない。
 再び押し着せのスーツを着た、完全な人間の姿だ。

 三種族は、横にいる互いを見合った。
 小学校で理科の授業を受けた者なら、昆虫標本を思わせる光景だ。
 彼らは整列したように一方に並び、同じ方向を向いている。
 消えずに残った炎は彼らの後で整い、椅子の形になっていた。
「どうぞ、お座りください」
 周りを取り囲むのは、魔法火を燃え盛る姿のまま固形化し、鎧とするルルディ騎士団。
 一人一人が持つ長い槍も、戦斧も、すべて同じ炎で作られている。
 その正面にいる一人、死神を思わせる大鎌を持った男の騎士に勧められた。
 
 標本と騎士団の間には、自衛隊が作った檻があった。
 ホームセンターで売るっている太い鉄パイプを、ボルトで固定するクランプと呼ばれる道具でつなぎ合わせた、簡素なもの。
 その中にパイプイスが並び、数人の男女が手足を手錠で戒められて座っている。
 内二人は、マルマロス・イストリア書記長と、ヴラフォス・エピコス中将・チェ連極限地師団長。
 二人を含め、誰も腰に銃をつけていない。
 そして議会などで見せる覇気を知る者なら驚くだろう、皆が精も渾も尽き果てた様子で顔を伏せていた。

 ルルディ騎士団のすぐ後ろに、どこからか引っ張ってきた大きな工具箱の上で、どっかっと腰を下ろした前藤 真志内閣総理大臣がいた。
 今は、灰色のダッフルコートを着ている。
 彼の後には、大勢の人間がいた。
 まず、魔術学園生徒会が、ほぼ全員。
 いないのは達美。
「クミ、あっちに行ってようね」
 生徒会の後では生徒会長のユニバース・ニューマンが、困り果てていた。
 ユニは努めて明るい表情で、息子のクミに語りかけるが。
「イヤー! 」
 クミは副会長、石元 巌の太い腕をしっかりつかんで離さない。
 実は、石元 巌は35歳。
 しかも、日本の異能力産業をトップとして牽引する、石元グループの総裁だったりする。
 そしてユニは、そこの御屋敷のメイドさん。
 そんな縁もあり、クミはたくましい巌にあこがれ、とてもなついていた。
 
 結局、2人でクミを別室に連れ出すことにした。

 各国の外交官、閣僚もいる。
 いくつもキラキラ輝く、銀色の稲穂のようにも見えるもの。
 それを持つには、駐在武官たちだ。
 駐在武官とは、在外公館に駐在して軍事に関する情報交換や情報収集を担当する軍人たち。
 今は自衛隊から借りた防弾チョッキとヘルメット、予備兵器である銃剣のついた64式小銃が頼りだ。
 その銃剣が、銀の稲穂の正体だ。
「かわいいですね。息子さんですか? 」
 事情を知らない駐在武官の一人が、ユニと巌を見てにこやかに言った。
「いや、そういうわけではないのですが……」
 巌はそう言いながらも、満足そうだった。
 
 駐在武官にはもう、糊のきいた軍服、ドレススーツも、たくさんの徽章も関係なかった。
 全て脱ぎ捨てられ、壁沿いに山積みになった。
 その横には、エピコスワインの大きな木箱、大量のイスやテーブルもまとめられている。
 とてつもなく大きなパーティーの舞台裏、そのなれの果てだ。

 そこは、広い四方をコンクリートに囲まれた空間。
 冷たい空気だ。人の息は白くなる。
 窓は無く、壁にドアと地球人が設置したLED灯光器が並ぶ。
「ここは、フセン市の市役所です。
 この掩蔽壕なら落ち着いて話し合えるかと思い、お借りしました」
 真志総理が言うとおり、この市役所は山の要塞を建設する際に出た土砂を積み上げ、作られた人工の山の中にある。
 彼の声は、歯を食いしばって跳びかかりたい衝動を抑えているようだ。

「下等なお前達と話すことなど、ない! 」
 海中樹の一人が叫んだ。
 三種族の中から、次々に賛同の声が上がる。
 しかし次に彼らがしたことは、辺りを見回し、誰かを探すことだった。

「ボルケーナ様ならいませんよ。
 我々からの依頼で、この街の様子を惑星全土に中継してくれています」
 真志はそう言って、一方の壁を指さした。
「お話したいことがあるなら、私が承りましょう」

 そこには壁いっぱいに、大きなボルケーニウムのディスプレーが2枚、立てかけてあった。
 右の一枚からはここの様子が映し出され、声まで出ている。
 もう一枚は巨大なCの形をしたヤンフス大陸と、海を挟んで星の反対側にある、海中樹の諸島が映し出された世界地図だ。
 気象情報や昼と夜などの情報もリアルタイムで表示されている。
 世界地図の前には、赤いつなぎを着た女性の技師が一人だけ、チェックしていた。
 長いまっすぐな黒髪を、首の後ろで縛ってひとまとめにしている。
「ココナッタ村、良し! ハサハンミ町、良し! 」
 右のライブ映像と同じものが、左の世界地図で読み上げられた地域に送られているのだ。

「われらを見くびるな! ボルケーナ様! お顔をお見せください! 」
 白いスーツを着せられた、天上人が技師に呼びかけた。
 技師は振り向きもせず、億劫そうに返す。
「ボルケーナ様なら2時間前まで山の空港に居ましたよ」
 だが、その天上人は食い下がった。
「ボルケーニウム技師は、ほとんどいない! 霊力伝導性はオリハルコン以上だが、人の爪で傷がつくほど脆く、本体から離れればすぐ土に返る!
 オリハルコンなど、他の超物質と入れ替えるメリットは全くない! 」
 そう言われると技師は、イラついた様子でその天上人へ向いた。
「達美の地球以外ではね」
 救いを求める視線には、親の仇でも見るかのような視線が返ってきた。
 だぶついたつなぎを、強引に押し上げる胸と腰。
 シャープな顎と鼻筋の通った顔立ちに縁なしメガネという組み合わせは、精悍なイメージを感じさせる。
「今回の問題は、この星と地球から始まったんでしょ。まず地球人に言うべきじゃないですか? 」
 そう言って、チェックに戻るボルケーナ人間態。

 その一言に、何人かの三種族は完全に心が折れた。
 少しづつ、平衡感覚を失ったかのように席について行った。

 それでも、地中竜から人間に姿を変えられた一人、春風 優太郎は抵抗を続けた。
 つい先ほど、ボルケーナが操る4足歩行の浮かぶ装甲車、マークスレイに負けた男だ。
「人間には実現できぬ! 岩盤を打ち抜く力! 」