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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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(第四章)ハンターの到来(2)-初めての仕事



 面倒見のいい第1部長は、これまでも新米の美紗によく声をかけていたが、二人が仕事上のやり取りをする機会は、実のところ、ほとんどなかった。これまでの美紗の仕事は、先任の松永との間で完結する補佐的なものばかりだった。厳しい内容を求められても、最終的には、指導役である彼のフォローが入る。その点では、ある意味「半人前」の気楽さがあった。
 しかし今回は、自分のやることがそのまま第1部長の評価対象になる。たとえ会議の議事録作成などという些細な事柄でも、無様な失態を披露するようなことだけは、できれば避けたい。そう思うと、美紗の表情はつい固くなった。
「そんなに緊張しなくていいよ。仕事の流れは比留川2佐から聞いたね?」
 日垣がにこやかに話しかけると、美紗が答えるより早く、松永が口を挟んだ。
「よろしくお願いします。なにぶん不慣れな奴なんで……」
「それは承知だ。君は指導役というより、鈴置さんの保護者みたいだな」
 苦笑する日垣に、松永はイガグリ頭を掻きながら、はあ、と間の抜けた返事をした。
「ほら、言われた。子離れしないと子は育たないぞ」
 班長の比留川が得意の嫌味を披露すると、直轄チームはますます騒がしく盛り上がった。日垣は、最後のセッションに入る松永にいくつかの指示を出した後、そろそろ行こうか、と美紗を促した。美紗は、背後から聞こえる仰々しい声援に当惑しながら、第1部長の後をついていった。

「相変わらず『直轄ジマ』はにぎやかだな。うちは民間より人間関係が濃いらしいが、私から見ても、あのシマは特別だ」
 エレベーターを待ちながら、日垣は静かに笑った。「かえって仕事の邪魔になっていないか」という問いに、美紗は、いいえ、と返しながら、上官をそっと見上げた。自分のすぐ脇に立つ日垣は、思っていた以上に長身だった。肩の階級章が、目線より十センチ以上は高い位置にある。これまで職場で見ていた第1部長の姿といえば、部長室で座っているか、美紗の机のそばでパイプ椅子に座っているかの、どちらかだった。彼が妙に厳格そうに見えるのは、やや立ち話がしづらいほどの身長差に慣れていないせいだ、と美紗は思った。