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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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第四章:ハンターの到来(1)-突然の「指名」



 米国のカウンターパートを迎えて行われている情報交換会議に入ってほしい、と直轄班長の比留川2等海佐から唐突に言われた美紗は、立ち上がって、きょとんとした顔を彼に向けた。比留川は、「議事録を作ってもらいたいんだが……」と言いかけ、白黒のチェック柄のワンピースを着る小柄な女性職員を、まじまじと見た。そのふわりとしたシルエットが、元からの童顔にますます頼りなさそうな印象を加えていた。
 比留川は軽く咳払いをすると、早口で仕事の内容を説明した。
「日垣1佐が、午後一のセッションだけ、メモ取りにあんたを入れてほしいと言ってた。時間の半分はたぶん双方のブリーフィングだから、それは基本的には聞いてるだけでいい。すべて配布資料があるらしいし、必要に思うことだけ適宜記録してくれ。質疑応答の部分は、できる限り詳細に頼む。後で議事録にしてもらって、関係各所に回すことになるから。高峰にもあんたが責任もって申し送ってくれ」
 美紗は不安な気持ちを正直に顔に出した。統合情報局に来てから数回ほど、先任の松永3等陸佐に連れられて在日米軍のカウンターパートとの会議に同席したことはあったが、いずれも研修に毛の生えたような補佐業務だった。今回は完全に一人だ。しかも、問題のセッションの議題は、高峰3等陸佐の担当するテロ問題だった。美紗は、これまでこの分野には全く接したことがない。
「部長の『ご指名』じゃ、断れないよ」
 内局部員の宮崎が、銀縁眼鏡の下でニヤリと笑った。
「それ、絶対、日垣1佐の前で言うなよ。あの人、そういう冗談、大っ嫌いなんだから」
 比留川は、丸い顔をしかめて宮崎を睨みつけると、美紗のほうに向き直り、話を続けた。
「松永から聞いてる限りじゃ、あんたなら今日の仕事は支障なくできる。日垣1佐もそう思うからあんたに任せると言ったんだろ」
 普段、何かと辛口の発言が多い比留川が、珍しく言葉を選んでいた。見るからに半人前といった雰囲気の美紗を相手に、管理者の彼のほうもやや落ち着かないらしい。
「あんたの出番は第五セッションってやつだ。それが終わったら、次のセッション終了まで、会議場の近くの別室で待機しててくれ。場所は行けば分かる。事業企画課の連中が近くにいるはずだから、何かあったら彼らに聞けばいい」