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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ

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(第三章)ハンターの前触れ(2)-ハンターの予言



 あはは、と、征は白い歯を見せて笑った。当時の片桐よりさらに五歳以上若いと思われるバーテンダーは、表情を崩すと、すっかり少年の顔になってしまっていた。
「鈴置さんの周り、面白い人達だったんですねえ。軍とか自衛隊って、上下関係がすごく厳しいと思ってたけど、日垣さん、優しいから、下の人にまで使われちゃってたんですか?」
「そんなことはないけど……、中央勤務は少し特殊なんです。『下の人』と言っても、私がいたチームの班長さんも海軍の中佐に相当する人で、部隊に戻れば大きな艦の艦長を務める立場なんですよ」
 美紗は、分かる範囲で、自衛隊の人事システムのことを征に説明した。

 自衛隊幹部は、特に事情のない限り、地方部隊と中央組織を往復するように異動しながら、経験とキャリアを積んでいく。しかし、両者の勤務環境は大きく異なっている。厳格な指揮系統の下で管理される一般的な地方部隊では、3佐、2佐クラスが、何十人、何百人という人間を配下に置き、部隊長として大きな権限を振るう。しかし、中央組織に来た途端、彼らの多くは、「長」の肩書どころか部下の一人も与えられず、一班員として処遇される羽目になる。各幕僚監部よりやや格下の統合情報局に勤める比留川は、役職付きのポストに就いているだけ、まだマシなほうだった。
 第1部長の日垣は、現階級での在任期間の長さから、1佐の中でもより権限の大きい職に就き、人事から保全まで計六課、総勢百名余りを管理する立場にあった。しかし、情報局の重要な役割の一つである「情報提供」の側面では、情報局の内外をつなぐ調整役として彼の手足となるのは、美紗を含めわずか八名で構成される直轄チームのみだった。
 必然的に、第1部長と直轄チームの関係は、他の所属課に比して格段に強くなる。実際、日垣は非常に直轄チームを重宝していた。一方、当時の直轄チームのメンバーも、第1部長の気さくな性格のためなのか、上官に深い尊敬の念と、そして、やや厚かましいほどの親近感を抱いていたようだった。

「距離が近かったせいか、とにかくみんな遠慮が無かったように見えました。よく考えると、変ですよね」
 美紗は、その当時の幹部たちの滑稽なやり取りを思い出し、懐かしそうに微笑んだ。頭上のアンティークなペンダントライトが、穏やかな、しかし寂しげな顔に、柔らかな光を落とす。
「日垣さん、なんでも許しちゃう感じですもんね」
 征も藍色の目に同じ光を映しながら、静かに相槌を打った。そして、急に思いついたように、身を乗り出して尋ねた。