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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ

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(第二章)ホーセズネックの導き(3)-「直轄ジマ」の人々



 第1部長と、チームの重鎮である直轄班長と先任が、そろって部長室に入ってしまうと、七つの机が並んだ「直轄ジマ」は急にのんびりした空気になった。
「今までまともに話す機会もなかったよね」
 1等空尉の階級を付けた若い男が、やや馴れ馴れしい口調で美紗に話しかけて来た。面長の顔に短めの髪の毛を立たせた彼は、航空自衛隊の制服を着ているにも関わらず、街で遊ぶ大学生のような雰囲気だった。
「あ、僕、片桐。よろしく」
 ノリの軽そうな彼は、唐突に名乗ると、次に「お茶飲む?」と聞き、美紗の返事も聞かずに総務課のほうに走っていった。
 言われてみれば、直轄班長の比留川と先任の松永を除く直轄チームのメンバーとは、挨拶もろくにしていなかった。それに気が付いた美紗は、非礼を詫び慌てて自己紹介した。「シマ」の中ほどの席にいた白髪交じりに口ひげの3等陸佐が、温かな物腰で話しかけてきた。
「気にしなくていいよ。普通、担当者が変わったら、前任者か上官が新任者を連れて挨拶周りするもんだ。今回はそれすらなかったんだから。君も今までやりにくかったな」
 口ひげの3佐は、「高峰です」と目を細めると、己の斜め向かいに座る陸上自衛官を指さした。同じ3佐の階級を付けていながら、その彼は高峰よりずいぶん若く、三十代に入ったばかりのように見えた。
「彼は富澤3佐。僕と違ってCGSを出ているエリートだから、懇意にしとくといいことあるぞ」
「変なこと言わないでくださいよ。ここでは丁稚みたいなもんですから」
 未来のエリート、と紹介された富澤は、角ばった顔に太い眉を寄せて、照れくさそうな笑みを浮かべた。高峰の左隣、直轄班長のすぐ脇に位置する所に座っていた3等海佐は、腰を浮かせてひょろりとした上半身を美紗に見せると、「佐伯といいます」と軽く会釈し、机の下から大きめの菓子箱を出してきた。
「これ、昨日の出張の土産。午後にでも出すつもりだったけど、せっかくだから、今みんなで食っちまうか」
 白い饅頭の詰まった箱が「シマ」の真ん中に置かれると、大の男達が揃って「いただきます!」と大きな声を出し、我先にと手を伸ばした。