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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ

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(第二章)ホーセズネックの導き(2)-噂のカウンターパート


   
「この案件、本当にあなたが担当?」
 このセリフを言われるのは、もう五度目だ。六、七十人ほどが忙しく立ち働く広い部屋の中で、怒りを含むその言葉はやけに大きく聞こえた。美紗は消え入りそうな声で「そうです」と返すしかなかった。もともと実年齢よりかなり子供っぽい顔立ちが、さらに頼りない表情になった。

 国の対外情報活動を一手に取り仕切る防衛省統合情報局第1部で、部長室に一番近いところに陣取る第1部長直轄チーム、通称「直轄ジマ」は、いささか険悪な雰囲気に包まれていた。その中心にいたのは、地味な紺色のビジネススーツを着た鈴置美紗だった。
「今更『対応できません』って言われても困るんだよ、こっちも。人があれだけいてなんでできないのかよく分からんけど、できないならできないで早く回答してもらわないと」
 強い口調で美紗に文句を並べていたのは、直轄チームで先任(チームのNo.2)を務める3等陸佐の松永だった。六月も下旬に入り、陸上自衛官の彼は、クリーム色の半袖の開襟シャツに深緑色のスラックスという夏服を着ていたが、手近にあった書類をうちわ代わりにパタパタと落ち着きなく動かしていた。イガグリのように立った短髪が、厳しい顔をますます厳めしくしている。
 在席していた他の四人のメンバーは、仕事をするフリをしながら、少佐クラスに相当する四十近い陸自幹部と小柄な若い女性職員とのやり取りに、聞き耳を立てていた。
「業務調整は子供の使いじゃないんだ。こっちの話を持って帰ったら、そっちで必要人員を見積もって確保する。そういうことだろ? 入って数年のペーペーじゃあるまいし、一体何やってんだ」
 イガグリ頭が一方的に喋る脇で、他のメンバーが互いにひそひそと話した。
「今に始まったことじゃないけど、彼女のいる業務支援隊、組織ごと動き悪いよな」
「五時ちょっとでも過ぎるといなくなっちゃうし」
「調整担当替えてくれって向こうの幹部に言ったの、先月だったっけ? 全然対応なしってことなんだねえ」
 七つの机が一つの島のように固まって並ぶ「直轄ジマ」で、美紗は孤立無援の状態でぽつんと立っていた。