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糸魚川 翡翠
糸魚川 翡翠
novelistID. 57856
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囚人と青い鍵 1

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4 旅立ち(カイトside)


ヤ○ハ本社にて。

「また会えるといいね!」
「次見るときはテレビかもよ?」
「まずニコ動かな。」
「それじゃどの兄さんかわかんないじゃん。」
「それはみんなも一緒だよ。」
「じゃあ、みんながわかるように、私ネギ振ってるね!」
「それもどのミクだかわかんないって。」
「アイスねだりすぎてマスター困らせたりしないでよ?」
「めーちゃんこそ、酒癖の悪さでマスター困らせないでね。」
「こ、このバカイト!」

「それでは、箱に入ってください。」

「「「「「はーい」」」」」

狭っ!
小さいリンレンや、華奢なミクならともかく、僕まで箱の大きさ統一するのはおかしいって!

「うわっ!何この箱!もうちょっと大きいのに入れなさいよ!」

めーちゃんが狭いのは焼酎の瓶を3本も入れてるから、自業自得じゃないか?

「それでは、最後の説明を行います。」

いや、箱に入れる前にしろよ(全員の心の声)。

「あなた方5人は、我が社の新型ボーカロイド、V20のプロトタイプ(試験品)です。今から各モニターの家に運ばれ、それぞれのマスターとともに暮らしてください。それから、まだ開発段階ですので、不具合が発生した場合、こちらの方であなた方を回収いたします。詳しいことは、それぞれのデータの中に内蔵しておきましたので、そちらを参照してください。では、輸送を開始します。」

全然説明になってない(全員の心の声)。

午前3時半。
こうして僕たちは、宅急便のトラックの荷台に詰められ、それぞれのマスターの元へと運ばれた。どうやら、僕以外は二人でセットらしい。

「じゃあ、みんな、達者でやるのよ。」
「次会うときはネギパーティーですよ♪」

「めい姉、ミク姉、バイバーイ、ほら、レン。」
「さ、寂しくなんか無いんだからな!」
「姉妹仲良く頑張ってね。」

月並みな言葉しかかけられなかった。
というか、まず外から見たら箱同士の会話だ。明らかにシュールだ。

「またね、兄さん」
「ロードローラーで遊びに行くから!」
「いや、兄さんのマスターがどこだか知らないし。」
「ロードローラーで探す!」
「勢いで僕とマスターの家潰さないでね!?」

残るは、僕一人。

ーピンポーンー
「何ですか?」
「宅急便でーす」
「は?」

女の人の声だった。
この人が僕のマスターなのだろう。
声がけだるげなのは、無理もない。こんな時間の訪問者だ。ふつうなら寝ている時間だろう。マスターもきっとそうだったんだ。

それはともかく、だ。早く箱を開けてくれ。いい加減体が痛い。

そう思っていたところに、突如として光が射し込んだ。
マスターが箱を開けたのだ。

「やっと出られたーっ!ありがとうございますマスター!命の恩人です!あー、やっと体を伸ばせる。」

自分でも自分のテンションの高さに驚いたが、マスターの方はというと、呆然としている。
何が起きているのかさっぱりわからない、と言わんばかりに。

何とかしなくては。そうだ、困ったときはアイスだ!
「お近づきの印に、アイス食べませんか?」

視界に入った、廊下の奥の冷凍庫へと近づき、開けようとする。

「人ん家の冷凍庫勝手に開けんな!てかなんでアイスなんだよ。」

あ…れ…、マスター、怒ってる!?

「ごごっ、ごめんなさいマスター!あの、アイスはその、美味しいから、というか僕が好きだから…」

もはや言い訳にもなってない。しっかりしろ、僕。
なんとか場をつなげなくては。

「あの、マスター」
「翡翠」
「へ?」
「糸魚川 翡翠。私の名前。で、あんた誰?」
「カイトです。あの、ボーカロイドです。」

なんとか、マスターがつなげてくれた。
早くも僕は、マスターに救われたような、気がする。

自己紹介は済ませたけれど(あの程度だが)、マスターの怪訝な表情は消えない。

「ボーカロイドって、確か歌わせるソフトじゃないの?」
そうか、実体化していることに驚いているのか。

「新型なんです。」
「は?」
「だから、僕は新しく開発された、人型ボーカロイドV20なんです。で、あなたは僕のマスターなんです。」
状況を話したはずなのに、マスターは余計に困惑している。

「勝手に決めるな!まず私、あんたのこと注文してないし。」
もしかして、本社の人はマスターに何一つ説明していないのか。とんでもない会社だ。

「マスターは、新型ボーカロイドのモニターなんです。」
「つまり、新商品を使ってみて、改善点等ありましたら意見してくださいってことか。って、ずいぶん勝手だな。」
「そう…ですね。」

マスターは、ちゃんと僕のマスターになってくれるんだろうか?

一抹の不安がよぎる。

「モニターってことは、必ずしも使わなきゃいけない訳じゃないんでしょ。勝手に送られたんだし、別に売ったっていいんだし。とりあえず私は寝るから。」

「マス…ター…」
あぁ、こんなにすぐに不安が的中しなくたっていいじゃないか。まず、このマスターのところを追い出されたら、僕はどこに行けばいいんだ。

「はぁ。ここを出たところで行くとこ無いんでしょ。いいよ、しばらくここにいなよ。私やっぱ二度寝するから、7時半に起こしてよ?学校あるから、時間忘れないでよ。」

え、これは、「上げて下ろす作戦」の逆、新手の「下げて上げる大作戦」!?
てことは、僕はここにいていいんですね!

「はい!マスター」
できうる限りの最高の笑顔で僕は応えた。

作品名:囚人と青い鍵 1 作家名:糸魚川 翡翠