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糸魚川 翡翠
糸魚川 翡翠
novelistID. 57856
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囚人と青い鍵 1

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interval-1(萌side)


「ねぇねぇ、恭くん恭くん。」

彼、桐生 恭一(きりゅう きょういち)は萌の所属する音楽サークルの一つ上の先輩。
でも、萌は5月生まれだし、恭くんは3月生まれだから、ほとんど同い年。
だけど、すっごく優しくて、春からずっと萌の面倒を見てくれてる。
萌のこと、絶対否定しないし、いつも萌の話を真剣に聞いてくれる。
そんな恭くんが、萌は大好き。
わたしは、そんな恭くんが大好き。

「なに?」

「萌はね、本当は萌じゃないかもしれないよ?
って言ったらどうする?」

「どうした?急に。」

「だって、恭くんだって、ぜーったいに恭くんだって保証はある?まぁ、普段から恭くんのことを偽物かもしれなーいなんて意地悪な目で見てる訳じゃあないんだけどね。」

「まぁ、そう見られてたら俺も困る。」
まぁ、普通の人の反応なんだろうな。


「でもね、萌は、もしかしたら萌じゃないかもしれない。萌が萌であるための条件って何かなーって、何が萌を萌にしてるのかなーってしょっちゅう考えてる。」

「うん、しょっちゅうではないけど、俺も時々気になることもあるな。」
悪くない。多分、今までの人の中では。

「気持ち悪くない?」
「え?」
「だから、萌のこと、気持ち悪いって思わない?」

「なんでだよ、思うわけないだろ。」
そっか、そう言ってくれる人もいるよね。

「どうして?」
でもね、みんなここで詰まるんだよ。

「だって、そう思う理由がない。」
そうきたか。

「じゃあ、萌が考えてるようなことは、気持ち悪くない?」
「あぁ、だから言ったろ、俺もたまに気になるってさ。」

やっぱり、恭くんなら、信じて大丈夫、かな。

「恭くんは、萌のこと好き?」
「え、突然…」
「萌はね、恭くんのこと、だーいすきだよ?」

「恭くん?」
恭くんの顔をのぞき込んだ。

刹那、何も見えなくなった。

ほんの一瞬、わたしの唇に、彼の唇が重なった。

「え…いきなり…」
「答えただろ、萌。」

「あ、ありがとう!」
恭くんは顔を背けた。照れてる…のかな。

作品名:囚人と青い鍵 1 作家名:糸魚川 翡翠