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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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時速100kmでトイレの花子さん

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ごぉぉぉぉ。

「助けてぇぇぇ! 誰か助けてぇぇ!」

トイレの花子さん、時速100kmで走行中。

誰にも利用されたくないから、
同じ個室に閉じこもって独り暮らしを謳歌していたのに。

気が付いたときには現在100kmでトイレの個室ごと走行中。

先を走るレッカー車を運転する男は、
さっきからずっと眠りっぱなしだし!

「どうしよう! ここから出られない!!」

トイレを開けて外に出れば、高速道路に叩きつけられるし
このまま走ってもいつか壁に激突してしまう。



プルルルル。


閉ざされた個室に電話の音が響いた。
そうだ、これで誰かに助けを呼べばいい!

「もしもし!」

『もしもし……私メリーさん……』

「ああ、メリー、助かったわ。
 暴走している車に吊られて走っているの。
 お願い、助けを呼んでくれない?」


「いま、あなたの後ろにいるの」


振り返ると、メリーが来ていた。


「なんで来とるんじゃあああ!! 助け呼ばんかぃ!!」

「いや、会って話す方がいいかなって」

「あんたまで来てどうするのよ! 被害者増えただけでしょ!」

狭いトイレの個室に、幽霊が2匹。
このまま車が激突しトイレが壊れれば、
地縛霊の私は縛られるものがなくなって強制除霊される。

「ああ……もう……終わりよ……」

「ふっふっふ、花子。すぐ諦めるなんて花子らしくないじゃない」


メリーは私の電話を取ると、
前を走る車の荷台へとぶん投げた。

「メリー!? いったいなにを!?」

「花子、私の能力を忘れたの?
 電話を通じて瞬間移動できるのよ。
 今投げた電話のもとに瞬間移動すれば、車を止められる」

メリーはドヤ顔で解説した。
電話さえかけられれば、前を走る車へと転送できる。


「いや、誰が電話するのよ、メリー」

「……めり?」


「メリー、自分の電話持ってきてないよね」
「うん」

「今、私の電話なげたよね」
「そうね」

「どうやって電話かけるの」
「……」


花子はドアを開けて、
時速100kmの道路にメリーの顔を近づける。

「ごめんって! ごめんってぇぇぇ!!」

「二度死ね! ここで二度死ね!」


プルルルル!!


このタイミングで電話がかかった。
メリーは瞬時に電話を通じて、通話先へと瞬間転送。

「あっメリー! 逃げたな!」

トイレの個室にはふたたび私だけ残される。
車はなおも速度をあげていく。

みるみる壁が近づいてくる。


「ああ……もうだめね……。
 思えば、人を怖がらせるだけの人生だったもの……。
 バチがあたったのね……うぅ……」

ドアを閉めると、便座に座ってこれまでの人生を振り返った。
これが走馬灯なのね。
まさか意識的に見るとは思いもしなかった。



ドンッ!!!!



自分の歴史回想シーンが中断するほど大きな揺れが襲った。

「なっ、なになに!?」

思い切り前につんのめったあと、
トイレの個室は急停止した。


プルルルル。


車に乗せたままの電話が鳴る。
個室から出て電話に出ると、あの声が聞こえた。

『わたしメリーさん……』

「メリー!? あなたなの!?」


『いま、あなたのために車を止めたわ……』

車は警察の車の間に挟まれる形で急停車していた。
すべて、メリーが通報してくれたんだ。

「ああ、メリーありがとう、あなたはやっぱり私の友達よ」


花子は電話をもって個室に戻った。
ああ、これでやっと静かな個室生活に戻れる。



「おや、こんなところにトイレがあるぞ」


えっ。
外から嫌な声が聞こえる。


「高速道路でトイレがあるなんてありがたい」
「ちょうどトイレに行きたかったんだ」
「いやあ助かった助かった」

運転に疲れた汗だくの男たちが、花子さんのトイレに駆け込んでいった。