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椅子を勝手に変えるな!

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『椅子を勝手に変えるな!』

日本の会社というのは、事細かに決まっている序列社会である。その象徴が実は椅子である。どんないい会社でも、両肘がついた椅子というのは管理職に象徴である。

ナオミは我儘で世間知らずのOLである。上司の田中課長は、高卒ながら日本を代表する電気メーカの課長に五十前にようやくなった。課長の象徴が安いとはいえ、両肘のついた椅子だ! 課長になりたての頃は恥ずかしいやら嬉しいやら複雑な思いが交叉して妙に座りにくかったのを覚えている。
それがどうだ! ある日、田中課長の開いた口が塞がらない状況に出くわした。ナオミが社長よりも数段立派な椅子に座っているではないか!
「どうしたんだ! その椅子は!」と慌てて詰問した。
ナオミは、「ああ、これですか」と舌を出して、
「会社の椅子、あわないから、家から送ってもらったんです。家は家具屋で椅子も扱っています。私、腰が弱いから、会社の椅子が合わなくて、わざわざ父に頼んで送ってもらったんです。こっちの方が合うんです」
「あのね。そんな立派な椅子、社長だって座ってないぞ」と怒りを抑えながらも、顔はすでにゆでタコ状態である。
「そうですか、何なら社長に家の椅子を紹介して下さい。市価よりも格段の安い値段でどうですか?」
 怒りを通り越して、田中課長はめまいを感じてその場に膝間づいてしまった。
かろうじて、声を振り絞り、「そんな立派な椅子に座っちゃだめだよ。分かる?」
「全く理解できません」とナオミは平然と席を立った。