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スマホ太郎

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あるところに太郎という名の男の子がいました。不妊治療を重ねた末に40歳を過ぎてようやく授かった一人っ子だったこともあり、両親ともそれはそれは大切に太郎を育てました。
その期待に応えるように、太郎は明るくて活発な少年に育ちました。

やがて太郎は中学生になり、サッカー部に入部しました。毎日暗くなるまで練習する太郎のことが心配で、帰り道に事件や事故に巻き込まれないようにと、両親は太郎にスマホを買い与えました。

ほどなくして、スマホは太郎にとって何よりも大切なものになりました。毎晩遅くまでスマホでいろいろなサイトにアクセスすることが、楽しくて楽しくて仕方がありませんでした。SNSも大切なツールでした。ラインで仲間とつながっているといつも仲間と一緒にいるような安心感があり、新しい仲間が増えていくことがうれしくて仕方ありませんでした。その一方で、すぐに返信しないと仲間からシカトされたり、ネット上で誹謗中傷されたりするので、その不安から夜明けまでスマホをいじっていることが多くなりました。

やがて寝不足から朝起きられなくなり、朝練をさぼるようになりました。次第に学校にも行かなくなりました。気が付けば、一日中自宅でスマホをいじっていました。学校の成績はどんどん下がり、家から外に出ることもなくなりました。引き籠もりは良くないと、両親はファミレスに連れ出したりしましたが、食事中も一切スマホの画面から目を離すことはなく、ひたすらスマホをいじっていました。

見るに見かねた父親は、ついに太郎からスマホを取り上げました。
「何すんだよ、ジジイ!マジ、ウザいんだよ!返さねえと殺すぞ」太郎はスマホで覚えた汚い言葉を発しながら、父親を蹴飛ばしてスマホを取り返しました。
「馬鹿野郎!父親に向かって何をするんだ、お前は!」父親は激怒して太郎に往復ビンタを喰らわせました。
「あなた、止めてちょうだい。太郎が何をしたっていうのよ。太郎は何も悪くないわ。この子はとっても良い子なの。優しくて、思いやりがあって・・・。今はたまたまスマホに夢中なだけ。一番苦しんでいるのは、太郎自身なのよ」母親は必死になって止めました。
「お前が甘やかしすぎなんだ。このままじゃ太郎はダメになるぞ!」父親は言い返しました。
両親の声がうるさくてスマホのゲームにできない太郎は、「マジ、ウザいから」と取り返したスマホの画面から一切顔を上げないままつぶやきました。
バシッ。再び父親のビンタが太郎を捉えました。
「マジ、モラハラで訴えんぞ、お前」太郎が言いました。
「そうしましょう」母親はそういうと警察を呼びました。父親は警察の事情聴取を受け、妻子には今後一切近寄らないということになりました。

こうして、太郎と母親だけの生活が始まりました。母親は朝から晩までパートに出なければなりませんでしたが、太郎は一歩も外に出ません。太郎は食事中もトイレでも一切スマホの画面から目を離しませんから、母親は太郎の食事を3食分すべて用意してから出掛けました。ようやく疲れ切って深夜に帰宅すると、イラ立って不機嫌な太郎に呼びつけられました。

「ババア、帰って来んのが遅えよ」「ババア、何か夜食作れよ」「ババア、この漫画が面白そうだから買って来いよ。違うの買って来たらマジ殺すぞ!」太郎は毎晩怒鳴りました。
また、「太郎ちゃん」ではなく、「太郎様」と呼ばないと、母親に暴力をふるうようになりました。

それでも、「承知しました。太郎様」と母親は献身的に尽くし続けました。

30年の月日が経ちました。太郎は43歳、母親は85歳になっていました。それでも、かわいい太郎のために、母親は掛け持ちでのアルバイトを続けていました。

ついにその生活も終わるときが来ました。太郎はすでに24時間以上、何も食べていませんでした。いつものように母親が食事の準備をしてくれていないのです。

「おい、ババア!飯はまだかよ。飯もって来いよ。遅えぞコラッ」太郎はいつものように怒鳴りましたが返事がありません。「ババア、返事くらいしろよ!」やはり返事がありません。

実に30年ぶりに、太郎はスマホの画面から目を離しました。一瞬立ちくらみがしました。
するとそこには、見たことのない老婆が倒れており、すでに死後硬直も起こして冷たくなっていました。

「誰だ?この婆さん」太郎はそうつぶやきながら、母親を探しました。しかし母親はどこにも見当たりません。

もう一度、太郎はその死んだ老婆の顔をじっくりと眺めました。それは紛れもなく、優しかった母親の変わり果てた姿でした。

「マジかよ・・・」太郎は絶句しました。そして近くにあった鏡を覗き込みました。そこには醜く太った中年の男が立っていました。「このオッサンが俺かよ・・・。浦島太郎じゃね?」

太郎はいろいろと考えました。一体どこに連絡すればよいのか?救急車?霊柩車?警察?警察に届けたら、連行されて事情聴取を受けるのだろうか?葬式の手配はどうやってするのだろうか?収入がないのにこれからどうやって生活したら良いのか?どっちにしても、俺は今まで通りに一日中スマホがやっていたい。「マジ、ムカつく。勝手に死んでんじゃねえよ、ババア」。

悩んだ挙句、太郎はラインで仲間に相談しました。生活困難者のNPO法人を運営している人物が、太郎に適切なアドバイスをくれました。

「おそらくあなたのお母さんは、年金とバイトの収入であなたを養っていました。今大切なことは、お母さんの年金を引き続きもらい続けることです。まずは通販で大型冷凍庫を購入してください。そしてそこにお母さんを入れます。それがお葬式になります。調査の人が来ても、『母は誰にも会いたくないといっていますが、とても元気です』と説明してください。もし怪しまれても、ちょっと怒鳴りつければ帰っていくでしょう。次に私たちの法人で書類を手配するので、そこに署名してください。太郎さんに生活保護の受給をしてもらいます。手数料は無料ですが、入ってくる年金の50%は管理費として私に払ってください」。

太郎は言われるがままに母親の遺体を冷凍し、母親の年金と生活保護費の半分を毎月受け取れるようになりました。食事はコンビニ通販や宅配ピザで済ませ、欲しいものはみんなネット通販で手に入れました。たまに生活が苦しくなると、ネットの生活保護受給者御用達クリニックでSNSを使った診察を受け、大量の睡眠薬やシップを処方してもらい、それをネットオークションで売りさばいて生活費を稼ぎました。

こうして太郎は末永く、スマホと一緒に幸せに暮らしましたとさ。めでたし。めでたし。
作品名:スマホ太郎 作家名:真田信玄