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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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ついに勉強を止める日が来た。

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上(神様)が現れてから何回目かの宗教の勉強の日、いつものようにおばちゃんは時間通りに登場した。
私はある言葉をいつ切り出そうかと…いつ切り出すべきかとドキドキしていた。
それは二~三週間前から思っていた。
でも事実を知れるかもしれないと思ってしまう私は言えずに、また次の週また次の週と勉強を続けていた。
でもその日、私は意を決した。
おばちゃんを部屋へ招き入れるといつもならコーヒーを出して来る所なのだが、私は荷物を降ろしているおばちゃんの方を向いて、
『あの~、いきなりなんですけど、勉強止めます。』
とついに言った。
咄嗟のこと過ぎておばちゃんは固まった。
数秒だけど私とおばちゃんは向かい合ったままだった。
そして、
『まあまあまあまあ。』
と目を見開いて驚いているようだった。
私は表情を変えずに、
『いきなりですみません。』
と言った。
するとおばちゃんは神妙な顔になり、
『もしかして…、旦那さんに反対されたんですか?』
と聞いてきた。
私はウソだろ?!と思った。
これまで三ヶ月ほどだけど勉強してきて、何度もこの話は出た。
おばちゃんに何度か、
『旦那さんも勉強をする気はないですか?』
と聞かれていたけど、
『旦那さんは宗教に一切興味がないんです。神やキリストについても知りたいとは思っていません。でも私が勉強をする事に対しては、“好きにしていい。”と言われています。反対はされていません。』
と答えていた。
それなのに、“旦那さんに反対されたんですか?”と言われた。
おばちゃんは今まで何を聞いていたんだろうかと頭が痛くなってもいいくらいだった。
なので私は、
『旦那さんは全く反対していません。初めから旦那さんは反対していませんよ。』
と答えた。
おばちゃんは神妙な表情のままどうしてだろうかと首を傾げ、
『旦那さんに反対されたわけではないのに、どうして止めるんですか?これまでとても頑張って来たではありませんか。』
と言った。
止めると言ったらすぐに、私が神やキリストと話しているからだと思われると思っていた。
なのにそうじゃなく、今まで否定してきたことを口に出された。
旦那さんに反対されなかったら他に答えがないという考えが理解できない。
どうして最後の日に振り出しに戻すようなことを言って来たのか分からない。
それでも私は笑顔を崩さなかった。
『はい、それでも今日で止めます。旦那さんは関係ありません。』
と私は答えた。
『旦那さんは関係ないのにどうしてですか?』
とおばちゃんは尚も聞いてきた。
『ん~…。ちょっと勉強してみて、自分の知りたいことを知れると思ったんです。でも思っていたことと違ったので…。』
と私はどう答えたら良いのか困った。
神やキリストを信じているおばちゃんたちの答えと私の見ている神やキリストの答えが一致しないので、腑に落ちないおばちゃんの勉強を止めたいと思ったのが理由です…とは言えない。
はっきり言ってはムキになられそうだし、本当に困った。
そしておばちゃんは私の言葉を聞いて急に輝いた表情となり、
『はい、私はあなたが知りたいと思っていたことにちゃんと答えて来ましたよ。それなのに勉強を止めるんですか?あなたにはまだ知りたいことがあるのではないんですか?それに答えられるのは私たちだけだと思いますよ。知りたいことを知れるのに止めるのはもったいないと思いますよ。』
と言われた。
笑顔でいたはずの私の表情が困り顔になり、自然と首を傾げてしまっていた。
それを見たおばちゃんの表情は、輝いた表情からはっとしたのかバツが悪くなったのか、私から目をそらした。
そして私を必死で止めようとしていた態度も一変して、
『さっ、では、今日はもう来てしまったので、一応勉強をしましょうか。』
と言い、鞄から本や筆記用具を出し始めた。
私はもう今日、勉強はないと思っていた。
でももし止めると言えなかった時のために、机に用意はしておいた。
もちろんコーヒーも。
なので慌ててコーヒーを出した。
私が座るとおばちゃんが、
『勉強を止めた後どうするおつもりですか?』
と聞いてきた。
私は勉強をしていなかった生活に戻るだけだと思った。
でもそれは言わずに、
『勉強は止めます。でも聖書は一人で読みます。聖書は面白いので読みます。』
と答えた。
そう言えば、その言葉はこの宗教の人たちを豹変させてしまうのだ。
おばちゃんも態度が変わり、
『あのですね、何度も申し上げていますが、聖書は一人では読めないんです。一人で読んでも理解できないようになっているんです。私どもの手引きがなければ理解できないんです。神からの霊感がなければ聖書を理解することは出来ないんですよ。』
と言われた。
私もそのことは何度も言われているので分かっている。
『はい、そのこともちゃんと分かっています。それでもいいんです。』
と私は答えた。
『ではどうしてそこまで分かっていて止めるのですか?私たちのようになりたいとは思わないのですか?』
と言ってきた。
おばちゃんたちは日々、“謙虚でなければいけません。僭越(せんえつ)になってはいけません。”と言っているのに、こんなにも前向きに謙虚じゃない姿勢を表すなんて…と思った。
そして私は、
『私は最初から神について証すものになりたいと思ってはいません。洗脳されたくはないんです。と言っていました。なのでその考えは変わりません。』
と言ったら、
おばちゃんは無表情な冷たし視線を私に向けると、
『あっ、そうですか…分かりました。では、勉強を始めましょう。』
と言って勉強が始まった。
私は思った。
おばちゃんは自分自身に疲れないのかと…。

そしてその日初めて、勉強中おばちゃんは一度も荒れた態度にならなかった。
何度も私を褒めてくれたし、聖書のページをめくることについて、おばちゃんより早かったらムキになっていたおばちゃんが、
『まあ、ページをめくるのが早くなりましたね!!』
と褒めてくれた。
どうして最後の日に出来た…おばちゃん…。
おばちゃんも頑張れば出来るんだから一回目から出来ていたら…と私は思った。
その他に、
『読むのが上手ですね。』
『ちゃんと予習復習が出来ていますね。』
『自分なりにいろいろと考えているんですね。それは素晴らしいと思いますよ。』
などあった。
『聖書のここの部分を訳してください。』
とおばちゃんに言われて、訳したら今までだと無視されたり冷たくあしらわれていたのに、最後だけは、
『まあ、素晴らしい!!ちゃんと訳せていますね。』
と言われた。
おばちゃんには言わなかったけど、その訳も神様やキリストがヒントをくれたりしたから訳せたのだ。
おばちゃんたちの言う手引きとはこういうことなんだと思う。
そして一切ダメ出しがなく勉強が終わった。

そして玄関でおばちゃんをお見送りする時に、
『あなたと勉強が出来て良かったですよ。私にとってもとても良い勉強になりましたよ。』
と言われた。
今まであんなに取り乱して来たのは何だったのか分からない。
『また、勉強をしたくなったらいつでも連絡くださいね。では失礼致します。』
と言って帰って行った。