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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第十三話

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 そんなこんなで、何とか楽しくおいしい、ランチを終えて。

 軽く腹ごなしをした後、オレたちは行く先を塞ぐジェットコースター、『リバース・ロマンティ』に乗り込んだ。

十数人乗れるそれに、さっきのことなんかなかったんじゃないのか人の気も知らないでってくらいに朗らかな中司さんと快君、その後ろにオレとまどかちゃんが続く。

 係員の姿もなく、出発のベルも鳴らないジェットコースターは、オレたちが安全ベルトを止めるか止めないかのところで、ガタガタと車体を揺らし、レールの上を滑りだした。


 その道はそれほど広くなく、単線になっている。
 行こうと思えば、レールの上を歩くこともできるだろうが、ほぼ確実にジェットコースターに追い立てられる羽目になるのだろう。

 というより、一体これってすれ違いはどうするんだろう、といった感じだ。
 それは、そうは言っても取り分け気にしてはいなかった不安ではあったんだけど。


 「ね、ねえ? 前からもう一台来るんだけど」
 「し、しかもヤツラが乗ってる!」

 慌て怯える前席の二人。
 どうやらオレの不安は的中してしまったらしい。
 しかも厄介なことに、先程まどかちゃんにちょっかいをかけてきた奴らの仲間らしく黒ジャージの男達が四、五人、そのジェットコースターに乗っていた。


 「……っ」

 無意識なのか、さっき絡まれたのが尾を引いているのか、古い羊皮紙の巻物をぎゅっと抱え直したまどかちゃんは、その反対の手でオレのジャンパーを掴んだ。

 震えているのか揺れのためか、恐れているのか。
 せめてもの救いは、こっちと同じようにあちらさんもやってくるオレたちに驚いてるってことなんだけど。


 「って、全然救いになってないっての!」

 どうする? オレは、必死で頭をめぐらす。
 後ろの座席に行って衝撃を和らげるか、あるいはそこから降りるか。
 どちらにしろ、やばそうな展開にしかならない事を予感しつつ、さらに考えをめぐらそうとしたオレであったが。

 ふいに、レールに沿って真っ直ぐだったはずの左手側の壁に違和感。
 それは、窪み……いや、裂け目だった。
 
 そこだけ壁がない。
 代わりに、曲がり角でもあるのか、左へ急激に折れた壁が見える。
 あそこに飛び降りれば回避できるかもしれない。

 オレは、みんなにそう叫ぶつもりだったのだが。
 みんなオレを嘲うかのように、ジェットコースターは加速し、その裂け目を一瞬で通り越してしまう。


「きゃぁぁっ」
「うわぁ、ぶ、ぶつかるっ!」
「きゃぅっ!」

 後ろの席に行っているヒマすらない。
 悲鳴、焦った声。
 オレも、南無三とばかりに瞳を閉じることしかできなくて。
 対向車からも似たような悲鳴が聞こえてきたのを認識した時。

 がくんと、いきなりかかる急ブレーキ。
 いやな金属の軋みを響かせ、オレたちを前席に叩きつけるようにしてジェットコースターが止まる。

 そして、何が起きた? なんて考える間もなく、今度は後方に引っ張られる。


「きゃあっ」
「う、わわっ!」
「いてっ」
「ど、どうなってんのよ!」

 後ろに引っ張る力は、どうやらジェットコースターが猛スピードでバックしたことによるものらしい。
 安全ベルトがなかったら、席から投げ出されていたかもしれない。
 それほどの、無茶苦茶なスピードだった。
 目前まで迫っていた対抗車両は、ぐんぐんと離れて、今度は急激に左に流される力とともに、その対向車が見えなくなる。

 いや、見えなくなったんじゃない。
 オレたちのほうが本線から外れたんだろう。
 おそらくさっき見た裂け目、別車線に入ることによって。

 そう認識したその時、対向車は風のように前方を通り過ぎてゆく。
 ぶつからなかったことと、一悶着なくてすんだことに、正直安堵を覚えたオレたちだったけれど。

 バックしたままのコースターは止まらず。
 ぐんぐんと本線から離れてゆく。
 
 一体どこまで行くのだろうと気になって背後を見てみれば、コースターはいつも間にやら山なりのレールを登っているところだった。
 ジェットコースターによくある、嵐の前の静けさみたいなあれだ。
 もっとも、今は逆走してるわけだけど。


 「ねえ、ちょっと! どうなってんの!」

 背走が怖いのか、不安そうな中司さんの声があがる。

「ええと、そろそろてっぺん?」
「てっぺん? てっぺんって何よ!」

 レールは空に向かっていた。
 下を覗き見れば、あれほど高かった壁の上をいっている。
 もっと奥まで見渡せば、近場には一面の緑が広がっていた。
 それは、さながら樹海のようで。
 
 こんな山を登ってきたのだろうかと少し思う。
 その緑広がる彼方には、霞とともにある町並みが見えて。


 「……あ」

 多分、同じ景色を見ていたのだろう。
 ふいに、懐かしげな、悲しげなまどかちゃんに呟きが漏れる。
 オレは気になって、その表情を伺おうとしたけど。


 「うわっ」

 ガタンと音立てて突然止まるジェットコースター。
 なんかどこかで体験したことのあるような、始まる前の静けさがそこにあって。
 たった今のこの状況が、ジェットコースターによくある、メインとも言える落下の直前であることに気付いて。

「きゃぁああっ!」
「うわぁぁぁっ!」

 再び聞こえる、前の二人の悲鳴。
 それを伴奏に、来たばかりの道をずり落ちていくコースター。

「おぉぉぉぉっ!」
「はははははっ!」

 お腹の、真ん中の辺りが持ち上がる感覚。
 それがツボになったのか元々ジェットコースターが好きなのか、まどかちゃんはとても楽しげに笑っていた。
 オレも似たようなものだろう。
 やっぱり一番前がよかったかも、なんて思っていて。

 
 終わってみれば。
 落としところをしっかりと押さえた、しかも中々にスリリングなアトラクションであったと言えよう。

 あんまり楽しくて、本来の目的を忘れて、もう一度乗りたくなってしまうくらいには。


「ちょっと従業員さんあんなのあり? 事故でも起きたらどうするのよ!」
「これ帰りも乗るのかな、ヤダなぁ」

 だが、一番前の特等席にいた二人の感想は、あまり芳しいものではなかった。

 「えと、その、おじいちゃんはスイッチがどうのって言ってたけど。何分わたしも、初めて乗ったもので」

 わたしに聞かれましてもと、困り顔のまどかちゃん。
 しかし、オレはその言葉でピンと来た。

 「ああ、スイッチバックか。なるほど、斬新なジェットコースターだなぁ。……うん、ありだな」

 地元の山のてっぺんにある駅に、そう呼ばれるものがあったのを思い出し、オレはしみじみと納得する。
今のジェットコースターがそうであったように、それは単線しかない場所で、電車同士がすれ違いを行うためのものだ。

「ありなわけないでしょ! バカなの?」
「いや、だって隣町だけどさ、実際普通の電車に使われてたよ。地元の人なら納得するって」
「ええっ? じゃあ雄太くんは毎日こんな思いしてたの?」