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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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板前をしていた与太郎さん。

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私が一才か二才くらいに住んでいたアパートの話をお母さんがしてきた。

そのアパートはスナックの上が居住地になっていてお風呂はなく、2Kほどの広さの部屋だった。
でもベランダは大き目で、子どもが向き合って乗れるブランコが置いてあった。
お風呂は家から五十メートルほどの所に銭湯があったのでそこに毎日通っていたらしい。
私はまだ小さかったので、キッチンの桶で間に合わせていたとのこと。
パパはほとんど帰って来なかったので、私のアパートでの記憶の中にパパの記憶はない。
お母さんの友達の記憶はあるのに…。
そんなアパート暮らしを家が建つまでしていたとお母さんから聞かされている。

そのアパートでの暮らしの中で、お母さんが隣で料理屋をしていた与太郎(よたろう;仮名)さんのことを思い出したようで、その時の話をしてきた。

『あなた、隣で料理屋をしてた与太郎さん覚えてる?板前をしてた人なんだけど…。』
とお母さんが聞いてきた。
『全く…。隣に人が住んでたの?!』
と私は聞いた。
『ううん、住んでたんじゃなくて、隣が料理屋さんだったの。下がお店で、上で作ったり、用意をしてたりしてね。覚えてない?!』
とまた聞いてきた。
『全く…。隣があったことすら知らなかった。住んでるのは自分たちだけ…っていうか、私小さすぎてほとんど記憶ないよ。』
と興味も湧いてこなかった。
『あんな小さなアパートで、ドンちゃん(犬;本名)もいて…、パパが知り合いから何の相談もなしに買ってきて、結局お母さんが育てることになって…、あ~、なんか思い出したら腹が立ってきた!!』
と一人お母さんは記憶の中で腹を立てていた。
今の話で私が思うことは、ドンちゃんは家が建ってからじゃなくて、アパート時代からいたんだということだった。
新しい発見。
『そうそう、それでね、ドンちゃんはベランダで飼ってたんだけど、ちょっとお母さんが家を空けて帰って来て、何か用事をしてたら、大きな怒鳴り声を立てながら与太郎さんがベランダ伝いに入ってきたのよ~。お母さんビックリして、どうしたのって聞いたら、“ちょっと来てくれっ!!”って言うからお母さん急いで付いて行ったのよ~。』
と言う。
『何でベランダからベランダに来れるの?!』
と私は聞いた。
『あっ、そのアパートは仕切りもなく全部ベランダが繋がってるのよ。だから簡単に行き来が出来るの。…でもね、それが悪かったの。腹立てた与太郎さんに付いて行ったら、その日に出すお店の料理の御膳がテーブルに並べられててね、テーブルの下の座布団にドンちゃんが思いっ切りうんちしてたの…。』
とお母さんは思い出して、その時の思いになったのかため息が聞こえた。
『ウソーーーっ!!ドンちゃんやっちまったね。』
と私は何の記憶もないので人事のようにそう言った。
お母さんはまたため息を付くと、
『そうじゃないの、そうじゃないの。そんな笑えた話しじゃなかったの。めちゃくちゃお母さん怒鳴られたんだから…。怖かった~。怒鳴られながら、“急いで片付けてくれ!!どんな飼い方してるんだよ。こっちは食べ物扱ってんだからよ~!!犬が言う事聞かねぇんなら、紐で縛り付けとけっ!!”ってねぇ~。それで、お母さん、すみません。すみません。って謝りながら掃除したの。』
ともう昔の話なのに落ち込みようが凄くなった。
『その料理はどうなったの?!ドンちゃん食べてなかったの?!』
と私は私の疑問点があるので聞いた。
『それがね、それは運が良くてね、まだ料理はほとんどなかったから、見た感じは触ってなかったと思う。』
ということだった。
『その御膳は洗って出した?!その後どうなったの?!』
とまた私は自分の疑問を投げかけた。
『いや、その後の事は知らない。そのまま出したのか…、洗って出したのか…。どっちだろうね。それより、この事は誰も知らない話なの。パパも知らないはず…。パパは家にいなくて何もしてくれないから、お母さん必死だったし意地でも人に頼りたくないって思ってたから、何かが起こっても誰にも言わなかったの。自分が面倒を見るわけでもないのに犬なんか買ってきてーーーっ!!そしてこんな始末よ!!ま~た腹立ってきた!!離婚してホントっ、正解だったわ!!』
と思い出話なのにこんなにも喜怒哀楽が出る。
『その後から、その人とは気まずかったんじゃないの?!顔合わせる度に、うんち事件が蘇るでしょ!?』
と私は言った。
『ううん、そうでもないよ。最初は謝ったけど、与太郎さんに、“もういいですよ。もうこんなことがないようにしてください。”って言われたの。それに、お母さんも働いてたからいつも家にいたわけじゃないから、そんなに顔を合わせることもなかったからね…。』
ということだった。
その話はもう終わりかと思ったら、お母さんが、
『でもね、与太郎さん死んでしまったのよ…。』
と違う展開が始まった。
『はっ?!その人年寄りだったの?!』
と私は聞いた。
『ううん、お母さんと同い年でね、一人男の子がいるって聞いてた。大雨の日でね、上流の方に行くと沈み橋があるでしょ
。川も増水しててその橋も結構水に浸かってたみたいで、与太郎さんは止めた方がいいって言われてたみたいだけど、そこをいつも通るみたいで、その日も通ってね、見た目より流れがあったんだと思うんだけど、そのまま車ごと流されてしまったのよ~。その橋は昔から危ないって言われてるから、みんな気を付けているんだけど、たまにこういう事があるのよ~。』
とお母さんは淡々と語る。
『なんで与太郎さんはみんなが言うことを聞かなかったんだろうかねぇ~。』
と私は言った。
お母さんは肯きながら、
『そうそう。与太郎さん少し悪ぶってるところがあったから…、悪い人って言うわけじゃないんだけど、昔気質(むかしかたぎ)のようなところもある人だったから、人の言う事を聞くガラでもなかったのかもしれないのかなぁ~。』
と言う。
そういう性格の人もいるんだなぁと思った。
お母さんは続けて、
『それでね、その時に与太郎さんだけじゃなくて、奥さんも乗ってたのよ。』
と言った。
『えーーーっ!!奥さんとばっちり?!与太郎さんの昔気質のせいで巻き込まれたの?!いい迷惑だわぁ~。それで奥さんはどうなったの?!』
と私は聞いた。
『それが、与太郎さんは車のすぐ近くで見付かったんだけど、奥さんが見付からなくて、数日経ってどのくらいだったか、かなり流されたところで見付かったの。』
『あらまあ~、やっぱりいい迷惑だわぁ~。』
と私は言った。
『それでね、子どもは一緒に乗ってなかったから今も生きてるんだけど、奥さん妊娠してたみたいで…。』
とお母さんは言った。
『マジでっ?!それはないわ~。旦那一人が車で行けば良かったのに…。本当に迷惑!!』
と私は言った。
『お母さん、お葬式に行ったんだけど、その時に、“奥さんの方は見なくていい。”って言われてたの。奥さんの顔が見れないほどに腫れ上がってて、アザだらけで…。なのに顔の上に布を掛けてなくて、見えちゃうし…。』
とお母さんが言った。
笑っちゃいけないけど、ウケる…。
『本当、ドンちゃんのうんち事件の時の与太郎さん…怖かった~。』
とお母さんはまた言っている。