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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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プログラマー2 茶化し屋

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【 プログラマー 2 茶化し屋 】


「まだチェックメイトじゃないわ。二人とも早く海に飛び込みなさい!」
 パソコンからエリーの声がした。

 企業側は、外部連絡を禁止していたが、エリーは緊急用にP2P(ピアツーピア)という技術を使って、スカイプと同じ機能を自分達のパソコンに組みこんでいたのだ。

 俺達を狙った、短距離弾道ミサイルは上昇時はそれほど早くなく、落下時の速度は早い。もし俺が空を見上げた時、すでにミサイルが落ちてくる時であれば海に飛び込む間もなく死んでいただろう。

 とにかく俺は水深3メートル程の地点から炎に覆われる水面を眺めることができた。
 息を最大限に止めて浮き上がってくると、島にあった作業用のコテージは跡形もなくなっていた。

 俺達を雇っていた企業は軍事機密を知ったプログラマーを殺そうとしたのだ。
 となると、国に帰って保護を求めねばならないがカリブの島から帰るのは新幹線で東京から大阪に帰るというような簡単なことではない。
 さてこれからどうしたらいいだろう? 俺は波間に漂う流木に掴りながら途方に暮れた。

 ここはもう一度、島に戻って何ができるのかを考えよう。そう思って泳ぎだした時、遠くの方からモーターボートが近づいて来るのが見えた。ボートを運転しているのは見知らぬ若い女性。もしかしたら敵かもしれないが、この状態では運を天に任せるしかなかった。

「大変な目にあったわね」と、その見知らぬ女性が笑い、「エリーよ。はじめまして」そう言って、手を差し出した。見ると後部座席に傷ついた年配の男がいて、ぐったりしていた。これがたぶん、もう一人の仲間・プルミエだろう。


「私達が連中の仕事に感づいたので、開発中の商品(小型弾道ミサイル)テストを兼ねて、発射してきたのよ。夕べから動きがあったので、私は監視役の秘書が使うこのボートのエンジン・プラグに工作しておいたの。秘書は明け方に予備のジェットスキーで逃げたみたい」
「驚いたな。君はCIAか」と冗談を言うとエリーは「かもね」と言って笑った。

 彼女の正体が、工作員だったのかどうかはともかくとして、俺達はセント・ルシアにあるアメリカ領事館に助けを求め、帰国することができた。

 俺達を抹殺しようとした軍事企業についてはアメリカ政府が調査を開始することになったそうだ。恐ろしい目にあった賠償金などは貰えない可能性が高いが、それまでに貰っていた給料は返さなくても良いということなので当面の生活は大丈夫だった。


 エリーやプルミエとの友情は、その後も続き、俺達は時々香港やマカオで待ち合わせて食事をした。その際、「また別の仕事をみんなで一緒にやりたいね」と言ったら、「あるわよ」とエリーが答えた。

 プルミエが、「そりゃありがたいが、前回のような目にあうのはもうこりごりだよ」と苦笑いすると、エリーは「そうね。じゃ、自宅でできる映画の演出のような仕事はどうかしら」とスマートフォンにある仕事情報を見せた。

 なんでも人権を守るNGOからの依頼だそうで、中央アジアにある某国政府のホームページに侵入し、重々しい音楽と共に流れる、独裁者の偉業映像を加工して少し早回しに……、映画のエンドロールで流れるずっこけNGの映像も制作してコミカルに演出した上、音楽もスチャラカ調に変更。日本でいえばドリフのコントっぽくするのだとか。
 目的は独裁者の権威を失墜させ国民の離反を招かせること。世界はただの道化者としか捉えていないことを本人に分からせることだそうな。


 以前の俺ならば、そんな危ない仕事は引き受けなかったと思うが、弾道ミサイルに命を狙われた今では、なんとも思わなかった。酒の勢いもあって「面白い!」と、即座に引き受けてしまったのだ。

 とはいえ、俺達プログラマーに回されてくるのは断片的で、映画監督や演出家のような華々しい仕事ではなかった。
 報奨金だけは、他の依頼よりも多かったものの、全体像もまったく分からず、ファイアーウォールを破ってハッキングを繰り返し、指定の箇所にオブジェクトを貼り付けるだけという、下請け作業だったのだ。
 その上、地域を表すコードも中南米からアフリカ、中東と幅広く、この人権団体がどんな独裁者を相手にしているのかさえ教えてもらえなかった。

 俺はエリーに連絡し、この仕事を降りることにした。
 彼女もまた同じように思っていたそうで、「潮時かもしれないわね。この仕事を依頼したNGO幹部も拉致されたそうだし」と言い、プルミエもまた同意した。

 もしかすると、この仕事も辞められないのではないかとふと不安に思ったが、それは杞憂で、俺達はなんの問題もなくジャワ島でバカンスを楽しむことができた。
「カリブはもうこりごりだものね」エリーがそう言って笑った。

 だが、そんな時ですらパソコンを離せないのがプログラマーの性分で、トロピカル・フルーツを食べながらユーチューブを見ていたプルミエが、急に顔を強張らせ「トシキ、ちょっとこれを見ろ」とある映像を見せたのだ。
 
 それは最近、爆発的な再生数になっている映像で、南米を拠点とするゲリラ集団のプロモーションビデオをコミカルに加工したものだった。使っている音楽などから俺達が製作したものと推測できた。内容はといえば・・・、
 
 若者たちを募るシーンでは全員がインド映画風に踊りだし、最後はマイケルジャクソンのスリラー調に。銃を撃てば上から洗濯物が落ちてきて、怒ったオバサンにどつかれ、政府軍兵士を処刑しようとしたら、その兵士はカンフーの達人で、全員がボコボコに。殴られて鼻血を出しながらも全員がかっこよく整列したと思ったら隊長のズボンのバンドが切れ、女物のパンツを履いていたことが分かるというコメディに仕上がっていた。

 コメントの書き込みでは「大笑いした」とか「こいつはもう人前に出れないな」とかあり、大いに盛り上がっていた一方、この映像はかなりの恨みを買ったようで「これを作ったやつは世界中どこにいても絶対見つけ出して処刑してやる!」というような物騒なコメントもあった。

「こいつらを茶化していたのか。でも僕達の正体までは分かるわけがないよね」
「ああ、俺達は断片的な加工をしただけの下請けなんだから関係ないよ」

 プルミエと俺が、そう言ってお互いに納得した矢先、なにやら真剣に検索していたエリーが「これを見て!」と大声を上げた。

 見ると、それはゲリラ集団のまだ加工されていないホームページで、WANTED! Dead or alive(生死を問わず)と書かれたサイトの中にアメリカの大統領や政府軍の将軍にまじって、プルミエやエリーや、日本人TOSHIKI、100万ドルと書かれた記述があった。

     ( おしまい )

 ※・・・この話はフィクションであり、ここに登場する人物や団体等は存在しません。