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正常な世界にて

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「ポリなんて言い方するなよ……」
私たちの背後から男の声がする。まだつい最近に聞いたことのある口調だ。振り返ると、スーツ姿で苦々しい表情をした中年男性が立っていた。外見も記憶の片隅にある。
「あっ、ウチの学校に来たポリのおっさんだ」
坂本君がそう言うと同時に、私も思い出せた。高校に来た警官二人組のうちの一人だ。
「……君たちはここで何をしているんだね? まさか、人の死体をまた見たくなったからじゃないだろうね?」
木橋の死がきっかけで、死体に興味を抱くようになったのかという嫌味だ。冗談とはいえ、カチンと来る。
「そう言うアンタは、ここで何してるんですか? ほら、目の前に仕事が転がっていますよ?」
飼い犬にあそこの棒切れを拾ってこいという調子で、坂本君は眼前の惨事を指し示す……。

「あの男を署まで連行させてきました!」
そこへ、二人組のもう一人がやってきた。若い男のほうだ。今回もスーツ姿なこの二人は、コンビで仕事をしている刑事らしい。ドラマでよくある組み合わせだね。
「発砲については、俺が上にちゃんと言っておくから安心しろ」
「それは助かります」
先ほどの発砲は、この刑事がしたようだ。スーツの中にはきっと、ピストルをしまうホルスターが吊り下げられているんだろうね。
「……あれ? 君たちどこかで会った?」
「こいつらはほら、転落事故が起きた高校にいただろう?」
中年刑事がそう言うと、若い刑事は納得できた仕草を見せた。
「君たちも運が悪いね。また酷い現場を見てしまったんだろう?」
「ええまあ。でも、銃声を生で聴けたのでラッキーですよ」
坂本君ったら、不謹慎なセリフをよく吐くね……。
「ふんっ! お前らの周りはアンラッキー続きなんだぞ?」
中年刑事がため息をついて言った。私たちを死神扱いしているのかな?
「それを防ぐのも、アンタたちの仕事じゃないんですか?」
「……できればそうしてるさ!」
急に語尾を荒げた。キレる寸前かな? だとしたら、ピストルを抜いて撃ってくるかもしれない……。
「まあまあ、まあまあ」
幸い、若い刑事が彼を宥めてくれた。慣れている様子だから、普段から苦労しているんだろうね。
「これから大混雑になるだろうから、もう帰りなさいよ」
「は〜い!」
無邪気な返事をする坂本君。これ以上刺激になるような言動は慎んでほしいものだ……。

 中年刑事に睨まれつつ、私たちは駅のほうへ向かう。体力的および精神的な疲れが、急にどっと来た……。今振り返って、あの大惨劇の後を目にすれば、吐いてしまいそうだ。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん