小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ステファニー・キーツの死(前編)

INDEX|1ページ/8ページ|

次のページ
 


「ハア、ハア、ハア」
 ステファニーは暗闇の中を駆け抜けていた。
何かが自分を追ってきている。そんな気配がステファニーにはしていた。が、それが何であるのか、はたまた誰であるのかは彼女には判らない。気配はすれども、姿が全く見えないからだ。
 ステファニーがその気配に気がついたのは、ボーイフレンドのボブ・サムソンと別れた直後のことだった。
 ボブは長い金色の髪を持つとてもハンサムな青年で、ステファニーの通っているハイスクールでも抜群の人気を誇っている好青年だ。ステファニーとボブが付き合い始めたのは、ステファニーの大の親友であったアレイシア・ロブが自殺した頃からである。ボブは元々そのアレイシアと恋人同士で、羨ましい程の仲の良さだった。
 実はステファニー、その頃から、親友の恋人であるボブに少なからぬ行為を寄せていた。けれど、比較的大人しい性格のステファニーはそのことをボブに告げることが出来ず、また親友の彼氏を好きになってしまったことで親友と好きな人との間に挟まれ、かなり長い間思い悩んでいた。
 そんな時、アレイシアは何故なのか誰にも理由を告げることなく、自宅のあった高級マンションの屋上から飛び降り、死んでしまった。
 それを知った時、ステファニーは不思議なことに、あまり哀しいとは思わなかった。親友が自殺を図ったのにである。酷い人間であることは自分でもよく判る。だが、ボブのことがあったからなのだ、ということが暫くして自分でも気づいた。。アレイシアが死んだことで、ボブはもしかしたら自分と、という思いがステファニーにその感情を抱かせなかったのかもしれない。
 それからしばらくも経たない内に、ステファニーはボブに自分の気持を伝えていた。
 人気者の彼のことだ。何処にでもいる普通の女の子にしか過ぎない、目立つこともない自分の気持など受け容れられるはずなどない。きっとボブは断ってくるだろう、と思いながら。
 だが、ボブはステファニーの気持を受け容れてくれた。それどころか、自分もステファニーのことが以前から好きだったとさえ言ってくれた。
 ステファニーは、今、自分は夢の中にいるのではないか、と思った。でなかったらば、神様か誰かの悪戯か。彼のような青年が自分を受け容れてくれるなどということが、実際に起こりうるだなんてその時のステファニーには考えられなかった。
 しかし、夢でもなかったし、誰かの悪戯というわけでもなかった。
 二人は、今こうして付き合っているのだから。
 付き合い始めて早三ヶ月、二人の仲はとてもうまくいっていた。今夜も二人でフットボールの試合を観に行き、夕飯にピザを食べ、それからしばらくドライブを楽しんで、ステファニーの家の数ブロック先の所でボブと別れた。何故、家の前まで送ってもらわなかったかとおうと、今朝から母親が風邪気味で、遅くなってもいいからドラッグストアでクスリを買ってくるように申しつけられていたからだ。
 ドラッグストアで用を済ませたステファニーは、彼女独特の飛ぶような歩みで、家路を急いだ。
 ドラッグストアからステファニーの家までの数ブロックは、大企業のビルディングが立ち並んでおり、昼間は人々の通行も激しくうるさい場所であったが、午後八時も過ぎる頃になる、そこは別世界のように静かになってしまう。自然、歩みは速まる。
 ステファニーはさらに歩みを速めた。ステファニーの歩調に合わせるように、気配もスピードを増した。恐怖を感じたステファニーは駆け出していた。そこから、冒頭の部分にいたる。
 漸く、ステファニーが両親と共に住む高級アパートメントが見えてきた。ホッとしたステファニーはそこで走るのを止め、速度を落とした。これで、何も起こることはないあろう、と思ったからだ。
 通りに面したアパートメントの階段を上ろうとした瞬間、ステファニーの肩がポンと叩かれた。
 悲鳴と共に、ステファニーは振り返った。ここに至るまでの恐怖心が、ステファニーに悲鳴を上げさせたのだ。
 しかし、その恐怖もその人物が知り合いだったことが判って、一瞬にして、消え去った。
 にこり、と笑みすら浮かぶ。
「何だ、貴方だったの。びっくりさせないでよ。強盗か何かと思ったじゃない。この辺、最近そういうのがとても多いから」
 ステファニーの言う通り、最近この辺りでは高級アパートメントに住む住人を狙った強盗であったり、空き巣であったりが、多発していた。警察でも警戒を強めてパトロールにも当たってくれてはいるのだが、中々成果は上がっていない。先日は、ステファニーが家族と共に暮らすアパートメントの隣で強盗があり、暮らしていた住人も被害にあった。命を奪われることだけは免れたが、かなりの重症を負ったようで、長時間の手術を受けた挙句、今現在も集中治療室に入ることを余儀なくされた状態であるらしい。
 ステファニーの言葉に応じる様子もなく、ただ、真直ぐに彼女の顔を見つめる。
「何か用なの?私たちみたいな女の子が出歩くには、あまり適した時間だとは思えないけど」
 オートロック式のドアを開けるためのパスワードを打ち込みながら、ステファニーは尋ねる。肩を軽く竦めているのは、にこりともしないその人物に対して、軽く呆れているせいだ。
 しかし、これにも背後にいるその人物は沈黙したまま、答えようとはしない。
 元々は気の長い方のステファニーにも、その人物に恐怖を与えられたということも手伝ってか、珍しく声を荒げた。
「一体、何なのよ。早く用件を言ってよね」
<―――貴方は……私を殺した……>
「……?」
 腹の奥底から聞こえてくるような声に、バッグの中から鍵の代わりになっているカードを出そうとしていたその手を、ステファニーは止めた。横にいる、その人物の顔をじっと見つめる。
「あ、貴方、何、訳の判らないことを言ってるの?」
<私にはちゃんと判っていたのよ。貴方は、前からボブを好きだった。あの人は私の恋人なのに……。私が心から愛した人なのに……>
「貴方、何を言ってるの?」
 確かに彼女の言っていることは事実ではあるが、彼女がそれを知っていたはずもなく、ステファニーの頭の中には疑問符だけしか描かれない。
<しらばっくれようとしても駄目よ。私にはちゃんと判ってる。あんたが私を殺したのよ。私からボブを奪うために。だから、今度は私が同じ目に合わせてあげる!!>
「!!?」
 唐突に、ステファニーは目の前が真暗になるのを感じた。
 全身に、まさに苦痛としか表現出来ないほどの痛みが、急激に襲いかかってくる。
 ステファニーは助けを求め、声を出そうとしたが、恐怖で張り付いてしまったのか、それとも喉を圧迫するほどの痛み故か、口から発することが出来ない。
<私も……あの時、助けを求めたわ。だけど、誰も助けには来てくれなかった。私をあんなに愛していると言ってくれたボブも―――ボブも来てはくれなかった。それもこれも、全てあんたのせい。だから、私はあんたをっ!!>
「………」 ステファニーには、やっと、相手が何のことを言っているのか、理解出来た。そして、今まで自分が勘違いしていたことにも気づいた。ステファニーはその人物を、彼女の双子の姉の方だとばかり思っていたのだ。