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最後の孤島 第3話 『煙にまかれて』

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【ポールテン】(1)



 美しい青空と透き通るような海原が、目の前に広がっている。セスナ機の操縦桿を握る俺は、自然と浮足立ちそうになる。
 だが今は、大事な仕事中だ。最低限の緊張感は保っている。最近、このあたりの空域は、墜落した旅客機探し中の日本軍機が、ウロウロしているから、気をつけなければならない。

 俺の名前は、ポールテンという。仕事のため、オランダから1人で来た。33歳になり、結婚はまだしていない。だけど、モテないわけではない。アムステルダム(オランダの首都)に帰れば、美女がワンサカ寄ってくる。もっとも、イケてるアロハシャツや純金ネックレスを身に着けているからでもあるが。

 セスナ機の貨物スペースでは、積荷が音を立てている。これをやり取りするのが、俺の仕事だ。積荷とは大麻だ。乾燥させた葉っぱだけでなく、フィルター付きのマリファナタバコまである。
 後ろめたい気持ちはない。オランダでは、大麻の売買や使用などは合法だ。近頃では、アメリカでも合法になりつつある。
 合法化で商売がしやすくなったが、あまり儲からなくなってきた。一儲けしてみようじゃないかという者たちが、どんどん大麻ビジネスに参加してきているのだ。俺のような個人でやっている大麻売人にとっては、死活問題であった……。
 そんな中で今回の仕事は、とても大きなものだった。お得意様より、大量の注文が入ったのだ。もしかすると、どこかのバカに、質の悪い大麻を買わされてしまったのかもしれない。今回の仕事は違法だったが、怖くはない。

 自慢じゃないが、俺が取り扱うのは、質の良い物ばかりだ。最近の新米売人は、利益を上げることに熱中するあまり、育ちの悪い大麻草でも、構わずに使いやがる。
 今はまだ、オランダ一の大麻売人としか呼ばれていないが、いずれは、世界一の大麻売人と呼ばれることだろう。子供っぽい夢だが、この分野でしか活躍できないのだから、仕方がない。

   ギュルギュルギュルギュルギュルギュル

 何の前触れも無く、エンジンの出力がダウンし、機首のプロペラが止まってしまった……。安月給の整備士が、手を抜いたのだろうか? ジャンキーだけでなく、常人でも慌てる緊急事態だが、
 冷静に周囲を見回せたおかげで、はるか前方にある孤島を見つけることができた。距離はあるが、このグライダー状態でも、間に合いそうだ。必死に操縦桿に握り、機体のバランスを維持する。
 幸運にも、風による妨害は無く、一直線に進むことができた。まるで、掃除機に吸い込まれているみたいだ。