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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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基地は白夜に在り



「あらためて画(え)に注目してください」

新見は言って、立体画像を指し示した。

「これが冥王星です。直径2300キロ。地球の月の三分の二ほどの大きさで、248年かけて太陽系をまわっています。いま現在、〈冥王星型天体〉に分類される準惑星は何百も見つかっていますが、敵が特にこの星を基地の置き場所に選んだのは、彼らにとってこれが遊星の投擲に最も適した天体だったからなのでしょう。三十年後に海王星の内側に入るほどに太陽に近く、大きさなども手頃だった――他の星では遠過ぎるか、小さ過ぎるといった理由だと思われます。海王星のトリトンなどは地球人類に気づかれずに基地を造れはしなかったでしょうし、彼らにとって海王星の重力がワープの邪魔になるはずです。後はせいぜいマケマケが使えるかというところでしょうが、しかしこの星はあらゆる点で冥王星に劣るものと考えられます」

古代は聞いてて眠くなってくるのを感じた。

「ガミラス基地の位置は不明なのですが、それでもまったく絞り込みができてないわけではありません。ここに示した円内のどこかにあると推察されます」

冥王星の立体画像に線が引かれた。〈南極点〉の意味らしい《S》と描かれた点を中心に半径500、直径1000キロほどの円。星全体で直径2300だから、アニメ美少女の目玉をくり抜き置いてみたなら黒目はこんな感じかな、と思えるほどの凸面となる。絞り込んだと言えば言えるのかもしれないが……。

比較として、日本列島の図が重ねられた。日本の本州が端から端まで1000キロちょっと。青森から山口までを時計の針とするような円の中を探せということになる。

これは到底、『範囲を狭(せば)めた』と言えるようなものではない。それにしても、どうしてこの円内と言えるのか。

「〈基地は白夜に在り〉か」と島が言った。「話はわからなくもないが……」

古代はそれで思い出した。ガミラス基地は冥王星の白夜圏の中だろう――誰かがそんなふうに言うのは聞いたことがなくもない。つまり、これがそうだと言うのか。

「はい」と新見。「冥王星の自転軸は120度も傾いています。天王星が約90度で〈横倒しの星〉と呼ばれるのはよく知られますが、冥王星はそれよりもっと傾いて、北と南が逆転までしてるんですね。冥王星は磁場の北極が南にあって、南極が北にあるのです。地球は傾きが23度ですが、おかげで夏は陽が長く、冬は短いことになる。そして北極や南極では、夏は太陽が半年沈まず、冬はずっと夜のまま――冥王星はこれがひどく極端なのです」

図が変わった。自転軸の傾きと公転周期を、地球と冥王星とで比較するものらしい。両星の極圏の違いが特に示されている。

「おわかりでしょうか。120度も軸が傾いている星が250年かけてまわるため、夏と冬が入れ替わるのに124年もかかる。その間、極圏では白夜か極夜(きょくや)がずっとずっと続くのですが、その地域が星全体の半分以上を占めてしまう――つまり今、冥王星の〈夏〉であり〈昼〉である広大な区域はもうずっと何十年も地球と太陽を向いたままで、反対側はずっと逆を向いたままであるわけです。そしてこれが今後何十年もに渡ってずっとそのまんま」

「ははあ」

と何人かが言った。白夜が星の大半を占めて、ずっと百年以上も続く――ずいぶんと途方もない話だが、なるほど、図で説明されると、誰もが頷くしかないようだった。

「この十年、冥王星は南半球がずっと白夜の〈夏〉でした。そして今後何十年もそれが変わることはなく、北半球に〈春〉が来るのは五十年も先のことです。それまでずっと地球と太陽をまったく向きもしない所に基地を造るとは考えにくく、また、それでは遊星を飛ばしようもありません。〈夜〉の面に光るものが多くあればいくらなんでもこれまでの偵察で何か見つけているはずですので、北半球は有り得ぬと言えます。赤道付近の可能性も低く、遊星の軌道計算などからも、基地は高緯度であろうとの分析結果が出ています。この〈南半球の極を中心とした直径千キロ〉はそれらを踏まえて出したもので、現状ではこれが精一杯の推定です」

「やはり話にならん」島が言った。「そりゃあ、こんな星ならば、基地は白夜にあると思うよ。しかし敵がその裏をかいていたらどうするんだ。実は赤道辺りなんてことがまったくないとは言えないんじゃないか?」

「それは否定はできませんが、自転周期が150時間もあるのを考えると、低緯度に基地を置くとはやはり考えにくいものがあります。冥王星は一日が地球の六日以上あって、昼が三日続いた後に夜が三日という調子なんですね。やはり赤道付近と言うのはちょっと……」

「別にその分析を疑っているわけじゃない。だがこれじゃあたいして範囲を絞り込んだと言えないだろう。基地の位置がわからないなら、やはり日程を優先すべきだ」

「地球のことを考えないのか」南部が言った。「遊星爆弾を止めなけりゃ、海はずっと干上がったままだ。塩害の問題もある。放射能を除去したって自然なんか戻りゃしないぞ」

「そっちこそ! 今は何よりコスモクリーナーを持ち帰るのが先決だろうが! まずは子供を救うのを第一に考えるべきなんだ。子を救うのが人類全体を救い、動植物や自然を救うことになる!」

「だが遊星を止めさえすれば極の氷が解かせるんだ。おれ達が帰る頃には青い海だけは元に戻って――」

「それは〈ヤマト〉の務めじゃあない!」

「まあ待て」と真田が言った。「各自の意見はそのへんにしておいてくれ。今は〈スタンレー〉をやるとしたらどうするかの話だ」

新見をうながす。確かに話は敵をどう攻めるかを彼女が説明するところに移っていたはずだった。新見はまた冥王星の立体図を向いた。

「見つけて即これを叩く。そして素早く離脱する。〈サーチ・アンド・デストロイ〉・アンド・〈ヒット・アンド・ウェイ〉の戦法で行くしかないと思われます。航空隊の〈タイガー〉と〈ゼロ〉各機に核ミサイルを持たせ、白夜の範囲を分散して敵基地を捜索。〈ヤマト〉は後方でこれを援護します。基地を見つけたならば即座に核攻撃し、戦闘機隊を回収して宙域を離脱。後はワープで逃げるだけです」

しばらくの間、誰も口を利かなかった。第二艦橋を沈黙が覆った。

「それって……」と、ようやくのように太田が言った。「まるきり、〈メ号作戦〉じゃないか」

「そうですね」と新見。「一年前に失敗した作戦で〈いそかぜ〉型突撃艦が負った任務を今度は戦闘機で行い、戦艦隊がやった護衛を今度は〈ヤマト〉一隻で行うわけですが……これはまさしく〈メ号作戦〉そのままと言えます」

「冗談じゃない」島が言った。「一度失敗したものをなんでもう一度やる。正気とは思えんな。そんな作戦に賛成できるか」