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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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重い足取り



冗談じゃねえ、夢なら覚めてほしいよなあ……古代はそう考えながら、重い足取りで航空隊の区画に向かっていた。展望室に宇宙を眺めに入ったのも、そもそも区画に戻るのが気が進まなかったからだ。会議が終わると加藤は仮にも上官である自分を置いてサッサと行ってしまったし、戻ったところで部下であるはずの者達と口を利くこともできない。

なのに、どうやらおれ達で、冥王星の基地を見つけに行くことになるかもしれないぞ、とは。一体どんな顔をしてそんなことを言えばいいのか。

なんとかして逃げてえなあ……そう思った。あの艦長はこのおれを逃走心の固まりとでも思っているわけだよなあ。だって逃げるのがうまいやつが欲しいとか言ってたじゃないか。本当に、おれなんか使ってどうする気なんだ。

タイタン以来、航空隊のパイロット達や船の他のクルー達が自分を見る眼は変わった。変わったが、しかし異分子を見る眼であるのに変わりはない。むしろ前より悪くなった気さえする。

以前は露骨に疫病神を見る眼だった。この〈ヤマト〉という船に乗る資格のないがんもどきを見る目つきだった。なんかわけのわからんやつが〈コスモゼロ〉のパイロットだとよ。あんなの役に立つのかね。艦長は一体何を考えてんだ――そういう眼で見られていた。

それがどうだ。タイタンだ。古代自身は、ただただ必死で敵から逃げていただけで、何をしたというつもりもなかった。コスモナイトを自分が運んでいるために多くのクルーがヤキモキしているかもなんて、逃げながら考えている余裕なんかあるわけがない。

よりにもよってあのがんもどきが……終わってみれば〈ゼロ〉には敵のタマ一発当たっていなかったとなって、誰もが驚愕したという。こっちだってビックリだ。ちょっとなかなかないことをやったようだなと思ってから、周囲が自分を見る眼に気づいた。

最初は、これまでがこれまでだから、何も変わってないのかと思った。しかし違った。まわりの者らは、化け物でも見るかのようにこちらを見るようになったのだ。

そうだ、そうなるに決まっていた。円周率を何千桁も覚えたり、大食い大会でラーメンを何十杯も食うようなやつ。あるいは百階建てビルの外壁を素手で登ったりするようなやつ――その同類とみなされたのだ。確かに人とは思えぬほどの芸を持つやつなのかもしれない。でもそんなの、気味が悪い。やっぱり得体の知れないやつは腕がどんなにいいと言っても信用できない――。

それが人間というものだろう。この〈ヤマト〉の乗組員は選び抜かれたエリート集団。対して、おれはがんもどきだ。会社で言えば一流大出のバリバリキャリア族の中に、バイトの高卒あんちゃんてとこだ。ちょっとばかり特技があれば大きな顔ができるというもんじゃない。

だが何よりも、タイガー乗りだ。タイガー隊のパイロット達のおれを見てくる目つきが違う。隊長としておれを信頼していいか疑っている眼になった。

当然だろう。連中にすれば自分の命がかかっている。戦闘機乗りは船の盾だ。敵のただなかに突っ込んで、イザとなれば体当たり。ミサイルを自分が受けて船を護る。敵と刺し違える覚悟のない人間を、戦闘機には乗せられない。

〈タイガー〉のパイロットは華形(はながた)だ。咲いた花なら散るのは覚悟だ。生きて地球に帰るなどむしろ望んでないだろう。訓練で鍛えられてそうなっている。だからそういう顔をしている。

ひとり残らずだ。しかし、だからと言ったところで、別に無駄に死にたいと思っているわけではない。

ゆえに何よりも隊長だ。自分の命を預けられるやつなのか。こいつが『死ね』と言うなら死ねるやつなのか――それを確かめようとする。階級が上であるから従うとか、腕が良ければ見込まれるとかいう単純なものではありえない。

おれは〈タイガー〉のパイロット達に、戦って死ねと言うことができるか。自分自身が船を護って死ねるかどうかもわからないのに。

だから途方に暮れていた。おれなんかが隊長で信頼されるわけがない。あのヒゲの艦長はそんなことがわからないのか?

この前に艦長室で言われたこともよくわからない。一体おれに何を望んでいると言うんだ。

さっきのあの女にしても……森雪だっけ。なんだありゃあ。〈スタンレー〉をこのままにすればガミラス教徒が増えるからとか――他に心配することねえのか? さぞかし成績優秀で細かいことにも気がまわるんだろうけど、人の気なんか全然わかりゃしないんだろうな。

ああ気が重い。荷が重い。地球の運命なんか背負って前線に出ていくやつの気が知れねえよ。ましてやこんなマンガみたいな戦艦で、冥王星をブッ潰してマゼランか。

冥王星は〈スタンレー〉……隠語の意味はわからなくもないことだけど、一体誰がそう名付けたのやら。

やはり正気とも思えない。宗教に逃げ込むやつがいるのもわかるよ。あの森とかいう女も、少しは弱い人間の気持ちをわかってやれるようになったらどうかね。あんまりマジメに考えないでさ。

おれなんか何も信じるものも、救いになるものもない……そんなことを考えながら、古代は通路を歩いていった。