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ねぎとろまき
ねぎとろまき
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漂流の天使 クリオネちゃん:1

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~それは天使か、悪魔か~

それは、いつのことだかは分からないが、
海の水位が異常に上昇してしまった後の世界の話。
ほとんどの陸地が水の底に沈み、
人々は深刻すぎる陸地不足に悩まされていた。
多くの人とあらゆる資源が海の藻屑となりながらも
なんとか人々は前進しようと頑張ってきたが
なかなか実ることのない努力の日々には憤りすら感じる。

そしてここは、世界でも数少ない陸地、『キューメイン島』。
中学校のグラウンドくらいの広さしかない島で、住んでいる者は30人前後。
その一人が、今日もだらしなく釣り糸を垂らしてからというもの
1時間もこのままでいる、17歳の娘だ。

『っあ~~~・・・ついなぁ、もう。貴重な水分が奪われるー』

娘の名は『ルーイ』。今時珍しい、水浸しの世界に絶望していない娘。
・・・というのも、世界が水に沈む天災が起きたのは彼女が物心つく前の話。
厳しい世界のうねりの中、完全に人に身を委ねていたせいで
今の暮らしがすっかり日常になっているのだ。
彼女以外はあの天災を経験している者ばかりが島民になっているので
生きるエネルギーを年々奪われていく一方だが、
だからこそなのか、逞しく育っている。胸囲もだ。

そんな彼女の日課は、釣りで魚を得ることと、水平線を眺め続けること。
ルーイは、他所の陸地から助けが来るかも知れないという理由をつけているが
正直、そんなものはキューメイン島の誰も期待していない。
きっと他所も同じような陸地で精一杯生き残っているのだから、
誰かが来たとしても、援助や移住を望めるものじゃないと思っているのだ。
それでも、魚がかからないうちはどうせそれくらいしか出来ないし、
実際ルーイは信じている。世界のどこかでは、きっと。
10数年の年月の間に復興している地があると。
そこから、この狭い島に迎えが来てくれることを。

『ダメだ。今日も釣れないし、今日も何も来なかったな。
 でも、明日は来るような気がするのよねー』
『・・・いい加減諦めたらどうだ?』
『あ、ジャック。どう、作物は?』
『あんまり収穫はねぇな。これじゃ今日も根っこ1本だろうな』

ジャックはルーイの兄貴分。両親を天災で失った者同士、
本当の兄妹のように育てられた。
ただ、ジャックはあの天災の記憶がある分、
ルーイのように朗らかにはやっていけない。
妹分の前ではなんとか元気を出そうとはするのだが、
働き手になれる歳に成長してからというもの
なかなかうまくいかない仕事で、毎日億劫になっている。

『この調子だと、いつ種がなくなるか分からねえ。
 15年もよくもったと思うが・・・そろそろ限界かもな』
『・・・元気出して、ジャック!きっと、迎えは来るから!』
『お前なぁ。またそれか。そんなに簡単に来るわけねぇってあれほど・・・』
『・・・あ。ほら来たよ』
『え?ホントだ。でもまぁ、迎えが来たからって
 えええーーーッ!!?来たーーーッ!!?』

しれっと見つけた、水平線に浮かぶ影。
この程度の叫びが島中に響くほどの音量なので、
ジャックがイカダを目指して泳いでいく間に島民は全員集合した。
そして、ジャックがイカダを引っ張って陸地まで来ると・・・
島民は、イカダに乗っていた一人の少女にくぎ付けになる。

それは、まだ5歳ほどの小さな女の子。
真っ白な髪の少女が、ぐっすり眠っているではないか。
服も白く、ピンクに光るハートマークがついていて
頭につけている髪留めは左右に、これまた白いリボンがついている。

こんな小さな子が一人でイカダにいることも信じられないが、
もうひとつ、異常な個所を挙げるとするならば、
彼女がイカダの帆の支柱に『縛られて』いたことだった。
島民たちはすぐに縄を解き、彼女を解放した。
そして心配そうに見つめられる中、彼女は目を覚ました。

『ん・・・ふあああああああああああああ・・・
 ああああああああああああああああ・・・
 ・・・ああああああああああ・・・
 ああああああああああ』
『いや、アクビ長いから!!』

大粒の涙がほろりと落ち、12.4秒ものアクビを終えた少女は
自分の状況が理解できてなさそうに首をかしげ、言う。

『・・・ここはどこ?』
『こ、ここはキューメイン島だよ。それより、お譲ちゃん・・・』
『クリオネちゃんです』
『え、あ。ちゃんと名乗るんだ。エラいね・・・』

聞く前に答えるのは、エラいというか若干不気味だったが
今まで信じられなかった、他所者の到来に島民は歓喜しようとした。
素直に盛り上がれなかったのは、ジャックの言葉があったからだ。

『お、落ちつけよ皆。まだこの子がちゃんとした陸から来たか分からない。
 それに縛られて流されてたなんて、事件の香りがするじゃないか?』
『それはそうだが・・・』
『落ち着いて、この子の話を聞こう』
『この子じゃないよ。クリオネちゃんだよ』

クリオネちゃんはそう言ってジャックの裾を引っ張る。
顔の筋肉は瞬きと喋るときくらいしか動かさない、
年齢に不相応なポーカーフェイス。

『クリオネちゃん。君はどこから来たの?』
『遠いところ』
『それは、どんなところかな?』
『クリオネちゃんの自宅』
(自宅って。君くらいだったら『おうち』とか言えよ)

変なところばかり気になるが、クリオネちゃんは即答してくれる。
今度こそジャックは、肝心な点を聞き出す。

『それは・・・どんなところかな』
『クリオネちゃんの自宅はね、きらきらしてるの。
 ちょっと寒いけど、とっても広くて、原住民がたくさんいるの』

やはり、一部分だけ5歳らしからぬ言い方が含まれるが
最早そんなことは些細なことだった。
特に聞き逃せなかったのは、『とっても広い』『原住民がたくさん』の点。
今、この世界にまだそんなところが残っていたのなら、
自分たちも住めるかも知れないではないか。
ここでやっと、島民は諸手を上げて喜んだ。ルーイも得意げに笑う。

『ほらね。だから言ったでしょ。諦めるには早いって』
(言ってた覚えはないが・・・まぁ、今はどうでもいい)
『でも、どうやってそこまで行こっか?クリオネちゃん、帰る道、分かる?』
『うん。でも、クリオネちゃんは泳ぐのは不得手なの』
『いや。泳いで行かんでもいいんだが・・・
 要するに、イカダの動かし方は分からないってわけか』

道は分かっても、イカダで進む方法が分からない。
ここまで来て悩ましい問題が出たが、
逆に言えば、それさえ解決すれば後はどうにでもなる。
島民達はクリオネちゃんを僅かな食糧でもてなしつつ、
大人はどうするべきかを話し合っている。

『一応、こんなこともあろうかと造っておいた
 小舟はあるんだが、とても全員は乗らないな』
『島に残る者が出るのなら、食糧も全部は持っていけないぞ』
『・・・せいぜい2人。2人があの子に着いて行き、
 あの子の自宅とやらで助けを求めてくるしかないだろう』
『となると、帆での航海が可能で、体力と忍耐力のある者。
 食糧が尽きた時に魚を釣って賄える者が適任ね』
『・・・ジャックと、ルーイ。お前達がいいだろう』

島民代表の老人が出した結論はそうだった。