二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

For the future !

INDEX|11ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

二年目八月初旬 壮行会



太陽が天頂を過ぎてからしばらく経ったが、夕方というにはまだ早い時刻。
夏の陽ざしが降り注ぐ中、六本木ヒルズアリーナの特設会場にはひとがたくさんいる。
客席として並べられたイスは何列もあり、さらに、それらの席を半円形に囲むようにある柵の向こうには立ち見の客の人垣が何重にもできている。
彼らが向いているほうにはステージがある。
ジャケットとネクタイは無しというクールビズなスーツ姿、白いシャツに濃いめのグレイのパンツの男女がイスに座っている。
ステージ上にいるのはパンパシフィック選手権の日本代表選手たちだ。
パンパシフィック選手権の壮行会が行われているのである。
進行はパンパシフィック選手権の放映権を持つ民放のテレビ局のアナウンサー、男性女性のふたりがつとめている。
アナウンサーの紹介で選手はひとりずつステージに登場し、そのたびに選手席のうしろにある大きなモニターに選手の紹介画像が映し出された。
選手全員がステージ上の席についたあとは、パンパシフィック選手権日本代表選手団のプロモーションビデオが流された。
そして、今、選手へのインタビューが行われている。
凛と遙は選手席の最前列にいた。
国際大会はこのパンパシフィック選手権が初めてというふたりだが、日本選手権水泳競技会とジャパンオープンで華々しい記録を残して他を圧倒し、どちらも容姿が良くて、人気が出始めているため、最前列の席を割り当てられたのだった。
やがて、凛がインタビューされることになった。
凛は隣の選手から渡されたマイクを持ち、イスから立ちあがる。
本人はまだ知らないことだが、エロカッコ良すぎる美形スイマーとして注目を集めていて、アナウンサーの紹介とともにステージ上に登場したときはひときわ大きな黄色い歓声があがっていた。
凛はインタビューの対して落ち着いた態度で答える。
「松岡選手にとっては国際大会デビュー戦となりますが、やはり緊張しますか?」
「緊張はしています。ただし、いい意味で、です。これまで世界を目指して日々努力してきました。だから、今、やっとスタートラインに立った気分です。緊張と、そして、やっと挑んでいける、ワクワクした気持ちが胸にあります」
「パンパシフィック選手権での目標は?」
「もちろん、頂点です」
強い口調で凛が言い切ると、観客席から女性たちのものらしい歓声があがった。
「松岡選手は特に女性からの人気が急上昇しているようですが、そのことについて、どう思いますか?」
そう男性アナウンサーに質問されて、凛は一瞬戸惑った。
しかし、すぐに落ち着きを取りもどして答える。
「応援してもらえるのは嬉しいです。力になります」
そつのない回答だと、質問したアナウンサーだけでなく報道陣は思った。
「松岡選手は過去にオーストラリア留学の経験があり、現在もオーストラリアのチームに所属していて、英語が得意だそうですね」
今度は女性アナウンサーが問いかけてきた。
「はい」
「では、英語でファンに向けて、なにかお願いします」
凛はふたたび戸惑った。
なぜそんなことを頼まれるのか?
だが、よくわからないものの、依頼に応じることにする。
凛は英語で、応援ありがとうございます、これからも応援宜しくお願いします、良い結果を出せるよう頑張るので、ぜひ、パンパシフィック選手権を見てください、と言った。
流暢な英語だった。
さっきよりも大きな歓声があがった。
この反応はなんだろう……?
そう不思議に感じつつも、凛はそれを顔に出さないようにした。
「松岡選手、ありがとうございました」
凛へのインタビューは終わった。
「それでは、七瀬選手」
次は遙の番だ。
凛は自分の席につくまえに遙にマイクを渡した。
遙は無表情のままイスから立ちあがった。
「七瀬選手にとっても国際大会デビュー戦となりますが、緊張していますか?」
「別に……」
イスに座って聞いていた凛はぎょっとする。
いや、そりゃ、コイツのことだから、本当に、別に緊張してないんだろうが……!
「七瀬選手も女性からの人気が急上昇しているようですが、どう思いますか?」
そう問われて、遙はわずかに首をかしげた。
そして、感情のこもらない声で答える。
「どうでもいいです」
凛は胸のうちでうめいた。
いや、正直な感想なんだろうけど……!
だが、この場でその返答はマズいだろ!?
自分が遙の代理人としてインタビューに答えたくなる。
あせる凛の一方で、アナウンサーたちはこの状況を変える方法を知っていた。
男性アナウンサーは遙に言う。
「七瀬選手は男子フリー100メートルで松岡選手とライバル関係にあり、日本選手権水泳競技会では七瀬選手が優勝で松岡選手は二位、ジャパンオープンでは松岡選手が優勝し七瀬選手が二位という結果でしたが、パンパシフィック選手権ではどうなるでしょうか?」
「俺が勝ちます」
遙は即答し、続ける。
「たしかにジャパンオープンでは負けましたが、持っている記録は俺のほうが上ですから」
さっきまで深海魚のようだったのが、今はキリッとしている。
あっさり食いついたー!
そうアナウンサーだけでなく報道陣は思った。
七瀬遙は松岡凛を餌にすればいいと、これまでのインタビューの経験で知っているのだ
「ハル、ずいぶん余裕じゃねぇかよ」
さっき落ち着いた態度でそつなくインタビューに答えていた凛が攻撃的な雰囲気を漂わせて言った。
こっちもあっさり食いついたー!
そう報道陣は思った。
さっきのインタビューでの凛の受け答えはそつがなさすぎたので、今の展開はおもしろい。
遙は凛を振り返った。
「余裕もなにも、事実だろう」
「じゃあ、勝負しようぜ、今」
「受けてたつ」
凛はイスから立ちあがった。
今、勝負するって、プールがないのにどうやって、と報道陣も観客も戸惑う。
凛は告げる。
「早脱ぎ対決だ」
「わかった」
遙はうなずく。それから、マイクを自分の席に置きに行く。
一方。
早脱ぎ!?
観客席からどよめきが起きた。ふたりがこれから脱ぐ。ドキドキしている女子も多い。報道陣にしてみれば、ますますおもしろい展開だ。
凛は観客席に眼をやり、呼びかける。
「似鳥!」
「はい!」
立ち見席にいた似鳥が緊張の面持ちで返事した。
ちなみに、会場には真琴や渚や怜や江もいる。今日は平日だが、大学生はとっくの昔に夏休みに入っている。
「おまえがスタートの合図をしろ」
「はい!」
そう返事したあと、似鳥は大きく息を吸った。
注目を集めている、報道陣が来ていて、カメラも向けられている。
しかし、見た目の印象とは異なり、似鳥はいざというときには度胸の据わるタイプだ。水泳の強豪校である鮫柄学園の水泳部で部長もつとめた。
似鳥は表情を強くし、口を開く。
「それでは」
合図を待っている凛と遙に、告げる。
「スタート!」
即座に、凛と遙は自分のシャツのボタンに手をやった。
あっというまにボタンを外していく。
そして、白いシャツをバッと勢いよく脱ぎ捨てた。
上半身裸になる。
観客席から歓声が、悲鳴のような黄色い声があがる。
ふたりとも水泳選手なので上半身裸はめずらしくないのだが、こうして着ていた物を脱いで、よく鍛えられた筋肉質な身体があらわにされると、なにか、違うのだ。
作品名:For the future ! 作家名:hujio