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関西夫夫 クーラー4

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「はあ? 名古屋に出張? その足でか? 」
 いつもより遅く帰宅して、俺の旦那に説明したら怒鳴らんばかりの声を張り上げた。
「その代わり、シャッターの修理代は会社の経費でみてくれるってことで話は通った。まあ、一週間に三日間やから、ええやん。」
 スーツを脱いだら、ネクタイを引き抜かれた。それから、ワイシャツも脱がされる。食卓の椅子に座ったままで、俺の旦那が着替えさせてくれる。すでに、十一時を廻ってるんで、食事の準備はできていた。今日は、蒸し鶏やった。うちのは、山のような細切りの白ネギがかかってて、たっぷりのしょうがと出汁醤油がかけてある。その下にはきゅうりの千切りがあって、暑くても食べ易いメニューや。それと、冷たいお吸い物がしてある。ワカメのお吸い物を冷蔵庫で冷やしてるんで、俺でも食べられる。
「二週続けてなあ。ほんなら、今週は、俺が遠征して、あっちの温泉でも行こか? ほんで帰りはレンタで帰ってきたら、あんまり歩いて移動せんでもええやろ。」
「かまへんけど、金かかるで? 」
 ごはんも適当に冷ましてあるんで、ばくばく食える代物や。パリパリと黄色のたんあんを齧った。旦那は、先に食ったらしくデザートの水羊羹を食っている。
「あ、夏休みか・・・まあ、ええわ。たまのことやし。・・・うーん、名古屋の近場ってなると、渥美半島とかがええかな。あそこやったら、温泉があったはずや。」
「どこでもええけど。おまえ、大変ちゃうか? 」
「仕事終わって、そのまま新幹線に飛び乗るんやったら、それほど遅くはならへん。レンタの手配してくれるか? 」
「俺の着替えは? 」
「持っていって交換したる。そこいらは任せとき。・・・確か、メロン食い放題とかあったはずや。くくくくく・・・まあ、調べとくわ。」
「今週は忙しいって言うてなかったか? 」
「おまえがおらん水曜から木曜は残業して、金曜は定時上がりしたらええ。あかんかったら、金曜は、おまえが泊ってるビジネスホテルでもええやん。土曜は、レンタ借りて、ぶらぶらしよう。」
「そっちのほうが無難やな。金曜は、ビジネスホテルに泊ろう。予約しとくわ。」
「ほな、ダブルで。」
「ドアホッッ、ツインじゃっっ。ボケッッ。」
 うちは食事中に、あまりテレビは見ないので、俺らの話し声しか聞こえない。クーラーはかけてあるので、ひんやりした温度の部屋になっている。季節は、すっかり夏で、連日、高温注意報が出てる。夜でも、ここいらは熱帯夜や。クーラーがないと生活はできひん。
「おまえ、包帯巻けるか? 」
「適当に湿布貼って巻いたらええんやろ? 」
「・・・わかった。粘着包帯を用意したる。あれやったら、固定も強いし巻いただけで外れへん。」
「もう、ええんちゃうん? 」
 ちょっとした時に痛いことはあるが、無茶に動かさなければ痛みはない。それに、本社に出るのにサンダルはまずかろう。今日は、サンダルやったが、水曜からは革靴にしようと思てた。
「あかん。治りかけが肝心なんや。クセになったら、ちょっとしたことで捻挫するようになるし、冬になったら痛むらしい。ちゃんと治療はしとけ。」
「めんどくさいなあ。」
「お茶漬けするか? 」
「おう、茶いれて。」
 粗方、蒸し鶏を片付けたら、ごはんだけが残った。それを麦茶でかきこんで、タバコに火をつける。生活全般の管理をしているのは、俺の旦那なので、ちょっと尋ねておくことにした。用意万端な男なんで、もしかすると保険もかけてあるかもしれへん。
「俺、保険って入ってる? 」
「ああ、通院とか入院とかの金が出るやつに入ってる。今回のも、ちょっとだけ金くれるで。治療が全部終わったら、書類書く。」
「おまえは? 」
「俺のも入ったある。なんで? 」
「それ、受取人は? 」
「おまえ自身にしてある。満期になったら、おまえのとこへ入る。俺のも、そうや。」
「死んだら、俺のとこへ入っても、しゃーないやん。」
「・・・・この年で死ぬことはあらへんがな。名目上や。」
「でも、今度みたいなことになったら・・・俺、葬式とかいらんからな。適当に焼き場で、ちゃちゃっと焼いて棄ててくれたらええで? 」
「まあ、墓は用意するつもりはないから、そういうことになるな。どうしたん? 怖なったんか? 水都。」
「・・・いや・・俺が死んだら、おまえに金が入るとええなって思ってん。せやから受取人は、おまえにして欲しいなあ、と。ほしたら、なんかあっても、おまえの生活が苦しくなることもないやんか。どうせ、俺のほうが先やねんし。」
 タバコの煙を吐き出して、ちょっと俯いた。面と向かって言うのは、なんか恥ずかしいような、居た堪れないような気がした。すると、俺の旦那は対面の椅子から立ち上がって、俺の横に立った。俺の頭を、軽く腕で旦那の腹辺りに押さえ込まれた。
「あほなこと言いなや。心配せんでも、俺は公務員やから、年金をちゃんともらえる。・・・・それに、おまえがおらんくなったら、俺も気が抜けて後からすぐに逝くわ。」
「・・・後追い自殺とかやめてや。」
「そんなこと、せんでも、すぐにお陀仏するやろ。生き甲斐がおらんようになるんやから。・・・たぶん、俺のほうが、おまえに依存してんねん。おまえの世話するのが、俺の楽しみや。それがなくなったら、なんもなくなる。」
「作ったら、ええやんか。」
「耄碌したじじいに、新しい生き甲斐は難しいやろ。・・・せやから、そういうことは考えんでええねん。俺が、ちゃんとしてるから。・・・・お風呂入り。もう寝よう。」
 俺の旦那は、優しい声音で、そう言って、俺の頭を撫でた。それから、俺の手にあったタバコを灰皿でもみ消して、肩を叩く。
「・・あのな・・・花月。」
「うん? 」
「・・・・俺は、おまえが生かしてるから、いらんようになったら棄ててくれたらええねんで? 」
「それは無理やって。生き甲斐棄てて、どうすんのや? 水都。・・・なんか言われたんか? 」
「保険入ったら、花月に金が入るって。」
「誰や? そんなこと言うたんは。」
「堀内のおっさん。」
「一回、三途の川で泳がしたほうがええな、あのおっさん。碌なこと言わへん。・・・それ、無理やからな。養子縁組でもせぇーへんかぎり、おまえの遺産は浪速の家のもんになる。せやから、保険は意味が無い。」
「それも言われた。せやけど、ちょっとは入るらしい。」
「いらんわ。微々たる金をもろおても、どんならん。保険とかは、俺が管理してるから、おまえは新しいのに入る必要はないで。ええな? 水都。」
「・・・わかった・・・」
「おおきに、俺の嫁。ちょっと感動したわ。」
「なんで? 」
「おまえが、俺のことを、そんなに心配してくれるんが嬉しい。」
「当たり前や。俺の旦那やねんから。・・・風呂入る・・・」
 俺の旦那は、とても嬉しそうに笑ってた。まあ、あんまり大事にしてないから、俺が、そんなことを言うと感動するらしい。気恥ずかしいほどに笑顔なので、俺は、そのまま風呂場に逃げた。



作品名:関西夫夫 クーラー4 作家名:篠義