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関西夫夫 クーラー1

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うちの亭主の職場は節電が盛んで、冷房の設定温度が28度という、とても高い温度になっている。対して、俺のところは、大量の機械がある加減で熱暴走防止のため、かなり低い温度設定にされている。
 普段、そんな部屋で働いていると、俺は、その温度に慣らされて、とても亭主の温度には耐えられない。
 週末の午後、亭主がクリーニング屋に出かけたので、俺がクーラーの設定温度を弄った。いつもの温度に設定して、布団を被りぬくぬくと読書する。そのまま寝てしまうのは計算のうちやから、睡魔が襲い掛かったら抵抗せずに目を閉じる。いつもなら、小一時間もすると亭主が帰ってきて、クーラーの温度を上げるか切るかするので、ちょうどいい温度になる。



 クリーニング屋へ洗濯物を出し、出来上がったのを引き取った。そこまではよかったのだが、なぜか、俺は派出所で調書を取られていた。いや、俺は、なんも悪いことはしてへん。雑誌を買おうと入ったコンビニで、喧嘩が始まり、それを目撃していたための調書や。
「・・・・・ほんなら、読みますので、おかしいとこがあったら言うてください。・・えー、平成・・年七月・・・日、午後三時二十三分・・・」
 コンビニに居たのは、俺と店員と喧嘩したアホ二名やったので、目撃者ということで連れて来られた。雑誌を物色してたので、派手な音がしたとこからしか、俺は見てないし、怪我してもかなんから、離れていた。というか、入り口でやらかしやがったので、逃げ場がなかった。最悪は、バックヤードへ逃げたれ、と、その前に立っていたが、被害は無かった。すぐに店員が通報して、警察が飛んできたからや。そこまではええ。喧嘩したアホは、すぐに取り押さえられてパトに乗せられた。やれやれと店を出ようとしたとこで、ポリに呼び止められたのだ。「協力をお願いいたします。」 と、いたって丁寧ではあったが、有無を言わさない態度だった。なんも見てないと言うても、とりあえず証言だけして欲しいと、近くの派出所に連れ込まれ、そこで時間を追って説明をさせられた。そして、それを調書にして、ただいま確認中というところや。
「・・・・被害等はなかった。・・・ということでもよろしいですか? 吉本さん。」
「はい、それでええです。もう、よろしいやろ? 」
「あと、ここに拇印を。なんか身分証明とかありますか? 」
「免許証でよろしか? 」
「はい、コピーとらせてもらいます。」
 お役所仕事って、ほんま面倒や。いや、俺も普段は、こんなことしてるけど、それでも面倒やとは思う。一々、きっちりせなあかんから、ポリも大変やとは思う。
「時間取らせてすんませんなあ。冷たいもんでも、どうぞ。」
 ようやく、麦茶が運ばれて来た。調書が終わるまでは、飲食の一切はあかんのです、と、ポリその二が説明してくれた。
「ここだけの話ですが・・・あれ、強盗ですねん。」
「は? 」
 こっそりとポリその二が、教えてくれた。レジ前で、男二人が暴れて店員をレジから離れさせたら、レジの金を盗る算段の強盗なのだという。たまたま、店員の一人がバックヤードに居て、慌てて通報してくれたので未遂になったらしい。
「ここんとこ、いろんな手口があるんですわ。せやから、喧嘩が始まったら隠れてから通報してください。あいつら、ナイフとかは所持してますんで。」
「コンビニのレジって・・・そんなとこ、金入ってへんでしょ? 」
「いや、数万円でも、あいつらはええらしい。難儀なこと考えるんですわ。暴れて逃げたら捕まることも稀ですんや。・・・・今日みたいに昼間の犯行って少ないんです。夜間の店員が少ない時は多いんです。」
「さいですか。物騒な世の中やな。」
「ほんまに、物騒ですわ。・・・・はい、これで終わりです。ご協力ありがとうございました。」
 免許証を渡されて、どうやら開放らしい。やれやれ、と、派出所を出たら、すでに二時間経過していた。

・・・・俺、強盗やったら、真っ先に逃げるわ。そんなもん関わったら、えらいことになるからな・・・・

 俺は、とても健康体なので病気は、たまに風邪をひくぐらいのことで済んでいる。怪我は、大したことがなければ、それほど問題ではないのだが、入院するようなもんはNGや。なんせ、十日離れたら、人間やめるようなアホな嫁がおるからや。人生些か投げてるぐらいは、おもろいからええが、人間やめるほどとなると面倒なので、それだけはさせたない。とりあえず、アホ嫁の死に水とるまでは元気でいなければならないので、事故なんかには気をつけている。

 家に、ほうほうの体で帰り着いたら静かやった。また惰眠を貪ってるのやろうと、嫁の寝室の扉を開けたら、ものすごっ寒い。
「うわっっ、なんや、これ? 」
 ベッドの上には、ちっちゃくなった蓑虫がいる。アホが冷房を強にして昼寝しとるらしい。慌てて、クーラーを止めて、布団を剥がそうとしたら、「うー。」 と、唸る声がする。
「水都、生きてるか? 」
「・・さっさむー・・・」
「このどあほっっ。設定温度下げすぎじゃっっ。」
 蓑虫を布団から引き摺りだして、居間まで運んだら、徐々に解凍されて緩々と身体が伸びていく。こら、あかんがな、と、俺は風呂に沈めようと立ち上がろうとしたら、シャツを掴まれた。
「湯ためてくる。」
「・・・あかん・・・離れんな。寒い。」
 ずるずるとシャツを掴んでいた手は、そのまま背中に回されて、ほっとアホ嫁が息を吐く。触られた俺のほうが、飛び上がるほどに冷たい手やった。
「・・・遅かったな・・・」
「ポリにつかまっとった。」
「なんや、職質か? 」
「いや、目撃者ってやつで調書とられた。」
「事故? 」
「コンビニ強盗。」
「え? 」
「いや、未遂やってん。」
 とりあえず、あらましを話したら、嫁の身体が震えた。あほや、と、おっしゃる。
「さっさとバックヤードから逃げたらよかったんや。なんで見物しとんねん。」
「勝手に入るのも悪いやろ。まあ、離れてたから大丈夫やと思ったしな。」
「そんなアホは、何するかわからへんねんぞ? いきなり刺されたら、どうすんねん。」
「そら、あちらさんが迫ってきたら逃げるがな。・・・おまえも気ぃつけや? 最近、そんなん多いってポリが言うとった。」
「俺は逃げるで。おまえみたいに悠長に見学してへんわ。俺には体力なんてないからな。追いつかれたら死ぬ。」
「せやなあ、おまえは、そのほうがええやろな。」
 俺の嫁は、ひょろひょろの鶏がら野郎なので、体力はない。走らせたら、たぶん百メーターも走られへんと思われる。しばらく、じっとしていたが、そのうちガタガタと嫁が震えだした。
「ほら、いわんこっちゃない。」
 これは本格的にあかんがな、と、俺は嫁をだっこして風呂場へ向かった。熱いシャワーを浴びせて温めないと、本気で風邪を引きやがるからや。



作品名:関西夫夫 クーラー1 作家名:篠義