小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

INDEX|1ページ/28ページ|

次のページ
 
プロローグ


影はだいぶ短くなったが、この路地裏まではまだ光は差さない。
 ここは田舎町だが商店街はそれなりの賑わいを見せている。行きかう人が途切れる事はない。
それでもそこから一本入った細い道を覗き込む者はいなかった。
 そこに彼はいた。
 こんな季節にモッズコートのフードまで被って、もう動くこともなさそうなエアコンの室外機に腰掛け彼は何かを待っていた。
 しばし後、彼の肩がピクリと揺れた。とたんその体が震えだした。寒いはずはない。薬物の類でもなかった。
それは明らかに恐怖だった。
 何を恐れているのかガタガタと音を立てて暴れる右手をなんとかポケットから引っ張り出す。その手を今度は苦労して自らの懐に突っ込んだ。
 大きく息を吸い隠し持っていた物を勢いよく取り出す。
 拳銃だった。
 スマートな銃身。滑らかな曲線のグリップ。それと正反対に複雑なメカニックで構成された機関部。機能美に満ち溢れたデザイン。
 ルガーP08。
 1908年。つまり1世紀以上前にドイツが軍用として制式採用した自動拳銃だ。
 その旧式な、しかし他に類を見ないほど美しい拳銃を握り締め彼はなお震える左手で上部にある円形のレバーに手をかけた。また深く息を吸うとグイとそれを引き上げる。銃の上部がやや後方に下がり半分に折れて尺取虫のように曲がった。指を離すとシャキンという金属音とともにスライドは滑らかに前進、マガジン内の初弾をくわえ薬室に叩き込んで元の位置に戻った。通常の自動拳銃は上部、あるいは後端にあるスライドを前後にまっすぐ作動させ排きょう装弾させるがルガーの場合上部が尺取虫のように動く。トグルジョイント、ルガー独特の機構だった。
 不思議なことに。彼の震えは止まった。
 フードの奥に光る瞳には恐怖など微塵も見えない。いや感情すらも消えうせていた。
 ゆっくりと立ち上がり路地裏から商店街のふちまで歩む。彼は耳元を押さえ何かを聞いていた。
 3、2、1。
 声に出さず数える。
 カウント0で彼は飛び出した。
 さして人通りの多くない街に走り出す者がいても誰も気に留めない。
 彼は視線だけ左に向けるとルガーを腹の前で横に向け2発放った。
 その先にはたった今止められた車から降りてきた小太りの中年男がいた。弾丸は2発とも男の頭部に命中した。
 男は声もなくがくりと膝を折り弱弱しくその場に沈んでいった。
 さすがに悲鳴が起きた。近くにいた者は伏せながら辺りを見回したが殺人者の影はもう無かった。ルガーの男は着弾を確認もせず、そのまままっすぐ向かいの路地に走りこんだのだ。発砲地点から被害者までの距離は10m以上。射撃方法を考えれば神業といえよう。
 彼は路地から路地を走りぬけ途中に用意してあった自転車に飛び乗ると風のように街を去っていった。後を追えた者はいなかった。
 数キロ離れたゴミ捨て場に自転車を放り込むと殺人者は大きく背伸びをして何事も無かったかのように歩き出した。
 不意に躓いた様によろめく。地面をちらりと確認して彼は立ち去った。
 そこにはせっせと巣へ餌を運ぶ蟻の列があった。

ACT.1 この街のヒーロー

 午前中仕事で人に会ったのち俺は駅前ロータリーの行きつけの店に向かった。別段うまいわけじゃないのだが特大ホットドックが300円ちとうーむな味のカップコーヒーが100円という値段が売りの店だ。その名も「喫茶・早い!安い!だけ」なんとも正直な店主である。
 その正直なマスターとは顔なじみだし、人とのコネクションを大事にするのが俺のモットーだ。何しろ俺は若干16歳だがこの街で仲間と便利屋を営む経営者であるからだ、えへんぷい。
この人口20万ほどの中途半端な田舎町では悪い噂なんかすぐ広がる。だからちゃんと人と付き合い街に貢献している好青年であることをアピールし続けることは大切な営業なのだ。俺は自動になっていないドアに手をかけた。そのとき喫茶店の向かいに止まっている車が目に入った。向かいといっても駅前ロータリーだからちと離れてはいたのだが……
 ち、忙しい時に。
 足早に店に入る。5人が座れるカウンターとボックス席が2組。狭い店内に割りと見かける客が3人といつものマスター。いつもの光景がそこにあったが違うものがひとつだけあった。カウンターの端っこに光が当たっていた。真昼間の喫茶店にスポットライトなんかあるはずが無い。
 そこには少女が、頭に「美」をつけて一向に差し支えない、いやつけなきゃならん美少女が座っていたのだ。
 カウンター席に座ったまま身をくねらせて外を見つめていた。姿勢のおかげで細い体型が強調されている。長く豊かなややウェーブのある金髪。小学生に見える整った丸顔の真ん中には大きなエメラルドグリーンの瞳が輝いていた。金髪、エメラルドだけでもレアであるのに美少女となればアキバで1枚18000円するカード並みのスーパーレアだ。
まだ寒くない? と思われるノースリーブのワンピースから細く長い女のラインになりつつある手足が伸びている。その超がつきそうなミニスカートから生えたスラリとした足が…… とここで俺の視線に気がついた少女はエメラルドグリーンをジトッとこちらに向け剣のある声で言った。
「何見てるのよ?」
「足」
 街一番の正直者とは私の事だ。
 瞬間。ヒュンと白い指が顔の3cm前を通過していった。とっさに身を反らさなかったら思いっきりびんたを食らうところだった。初対面の相手を思いっきりひっぱたこうとはとはなかなか強気な娘だ。
見られるのが嫌ならミニスカなんかはくな!
よくよけたわねとキョトンとした少女にクレームをつけようとした時、俺は急用を思い出しマスターに声をかけた。
「マスター、シェリフに通報してくれ」
「シェリフ?」
 俺にガン無視された娘が質問してきた。
「この街の警察署長だ。もちろんあだ名だが」
「警察? てことはあれやっぱり強盗なの?ここに入るときから気になってたんだけど」
 やっぱり気がついていたのか。ガキの癖に勘のいいやつ。
「銀行の前に人相の悪いやつが車止めている、エンジンかけっぱで。疑われても仕方ないな」
 マスターに聞こえるように解説したので彼はやや緊張した面持ちで電話を取った。ほかの客は向かいの銀行に顔を向けた。と、そこで。
 派手に銃声と警報が鳴り響いた。続いて男が二人鞄と「銃」を持って飛び出す。一人は拳銃、もう一人は銃身を切り詰めた散弾銃、ソウドオフショットガンだ。こいつのは水平2連型を拳銃並みに切った物、通称マッドマックススペシャルだ。全長が短くなった分取り回しがよく発射される散弾は広範囲に広がり殺傷力は極めて高い。もちろん違法改造で持ってるだけで重犯罪だ。拳銃の男が銀行を振り返り2発撃った。やれやれ。
 一斉に床に伏せた客たちを後に身を低くして俺は外へ向かった。その背中に娘が声をかけてきた。振り返ると娘は床に張り付いた姿勢だった。横の客にパンツ見られてませんか?
ちょっと気がかり。
「どこ行くのよ、危ないわ」
 こいつ…… さっきいきなりビンタしてきたくせに……
 ガキとはいえ女ってことか。