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ヤマト航海日誌

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2016.7.17 生活に役立つお武家さま言葉



さて前回、『実写ヤマト』と『2199』はともに始まって二分で「ダメだこりゃ」とわかる。古代守が「沖田さん! あなたのために死ぬのであれば本望です!」と言った瞬間にわかる、という話をした。古代守は冥王星で無念の死を遂げねばならないのであって、決して、「本望だーい」と笑って死んではいけないのだ、と。

〈無念〉というのは今の日本であまり口にされない言葉だ。しかし昭和の頃までは、割と使われていたと思う。たとえばおれの手元に今、まさに1988年12月、昭和天皇がその翌月にコロリと死ぬというときに発行された中島らも・著『ぷるぷる・ぴぃぷる』という本がある。読んでみると次のような記述があるので引用しよう。ちなみに〈AN〉と文にあるのはラジオ番組のアナウンサーのことらしい。


   *


AN MHK語学講座の時間です。今日は「生活に役立つお武家さま言葉」をお送りします。(略)先生、今日はどういうお武家さま言葉を。

男 うむ。本日はお武家さま言葉における感嘆符の使い方について一手ご指南申し上げたい。

AN 感嘆符と申しますとたとえばどういう……

男 そうさな。たとえば「不覚!」「無念!」などが比較的実生活に役立つのではないかと存ずる。

AN 「不覚!」「無念!」ですか。日常生活ではどのように使えばよろしいのでしょうか。

男 うむ。ま、たとえば我々、日曜日に散歩に出たりする折に、よく竹藪を通ったりするわな。

AN 竹藪ですか?……ま、たまに通ることもありますけれど。

男 ものさびたその小道をばもののふの道について黙想しながら歩いておる。そういうときには人間誰でもスキができるものじゃ。

AN はあ……

男 はっ、と殺気を感じたときにはすでに遅く、竹藪の暗がりよりずいとばかりに突き出た竹槍一本、わがわき腹に折れよとばかりに突きささる。

AN はあ……

男 近在の百姓の「落ち武者狩り」じゃ、ん!?

AN はあ……

男 このときに一言、「不覚ぅっ!」……な?

AN ええ。

男 藪陰からぬっとあらわれたはまだ年のころ十八、九の若造じゃ。小躍りしおって、「やっただ、やっただ。おら、お武家さまの首さ取っただ!」おのれ、このような身分もない雑兵(ぞうひょう)ばらにしてやられたか。このときはらわたの底からしぼりあげるように……「む……無念じゃあっ!」……とな?

AN はあ……

男 どうじゃ、便利な言葉じゃろうが。


   *


とまあ……ええと、おわかりだろう。昔はよく使われていたのだ。

戦場(いくさば)で〈非業の死〉は日常だ。だが「無念じゃあっ」と叫ぶのはそれが無駄死にのときである。無駄死にでないなら「ボクは本望だ」と笑って死ぬのもアリかもしれない。宇宙人の円盤に〈F/A-18〉で突っ込んでそれで勝てるとわかっている場合とか――タコな脚本でヘボな演出と思いながらも見てて結構グッときちゃうこともある。

しかし〈ヤマザキ古代守〉や〈ぶっちゃん古代守〉はどうか。

始まって最初の二分でもういきなり「本望です! アハハハハ!」か。「自分の中では精一杯やったんですから結果がダメでも満足なんです。チョー最高!」って、オリンピックじゃないんだからねえ。世界を相手に少しは善戦したというならまだしも、百対ゼロのストレート敗けしておきながら、何を笑ってやがんだバカもん。アウェイというのは言い訳にならんよ。最初からお前ら国を背負って行くな。

と、そういう話だと思いませんかそこの君。だいたい、変だろ。〈ヤマザキ守〉も〈ぶっちゃん守〉も沖田に向かって「ボクがここに踏みとどまってあなたの盾になる」と言う。しかし昔の太平洋の戦争で、アメリカ軍は駆逐艦などいちいち標的にしなかった。「雑魚(ザコ)は構うな! 旗艦を殺れ! それに、何より輸送船だ! 食料・弾薬・燃料・兵員・資材を前線に運ぶ船こそ肝心だあっ!」。それが戦術というものであり、ガミラスは〈ゆきかぜ〉なんか無視してみんなで沖田を追うべきなのである。

駆逐艦など旗艦を沈めてそれからゆっくり片付ければいい――そうではないか? あの場合、もしガミラスが〈きりしま〉より〈ゆきかぜ〉を先に叩こうとするとしたら、状況はたったひとつしか考えられんね。古代守が沖田の命令聞いて一緒に撤退するときだろう。そうすると、敵は逃げる〈きりしま〉を追って仕留めようとするが手前にいる〈ゆきかぜ〉が邪魔。「ええいまずはあの護衛を沈めるのだ!」となって始めて古代守は沖田の盾でサンドバッグになることができる。『沖田のために死ぬなら本望』。そう言うのならあの兄貴は〈きりしま〉のすぐ後ろに自艦をつけるべきだったのだ。

しかしなぜか、一千隻のガミラスが〈ゆきかぜ〉一隻に攻撃を集中、古代守は〈きりしま〉が安全圏に到達するまで見事もちこたえたのであった――って、なんでやねん。なんでどうしてそんなことができるねん。古代守は駆逐艦を三倍の速度で宇宙を飛ばし、ガミラス戦艦一度に五隻も沈めるほどの腕前なのか? どうもそういうことらしいが、ならばなおさら〈きりしま〉護って共に撤退するべきじゃないか。

一千隻のガミラスのうち、いちばん弱い哨戒艇かなんかにも〈きりしま〉はドーンと一発で沈められる設定なんだろ。千を相手に相討ちできる〈ゆきかぜ〉が護衛をせずにどうして沖田があの戦場を脱せるのか。敵はワープができるのに、どうして旗艦に安全圏などというものがある。

宇宙に船が隠れられる竹藪みたいなものはない。八光年も先からまだ青い地球が見えるほど二百年後の望遠鏡は優れている。当然、ガミラスも同じ程度の望遠装置を持ってるだろう。たかだか四光時間先の〈きりしま〉は窓の沖田のヒゲに付いてるご飯粒まで丸見えなのだ。ガミラスは小舟一隻に〈きりしま〉を追わせ、ドスンと一撃、「やっただ、やっただ。おら、旗艦をやってやっただ」とできたはずではないのかよ。なぜどうして〈落ち武者狩り〉に遭わずに済むのだ。

これはつまり、考え方が普通とまったく逆ってことか。地球の船で〈ゆきかぜ〉だけがガミラスに勝てる船だった。だからあのとき、ガミラスは、沖田が逃げても「ほっておけ! 仕留めるべきはあのなんだかわけのわからん異常に強い駆逐艦だ! あの船だけに味方がこれまで一万隻も殺られたんだあっ!」と一度に千隻で向かってやっと〈ゆきかぜ〉を沈められた……。

そーかそーか、そういうことか、なるほどな。何をどう考えてもそう解釈するしかないからこう断定するしかあるまい。〈きりしま〉はそのくらいにガミラスにとってどうでもいい船だったのだ。追いかけるだけ燃料の無駄。砲で撃つのもタマの無駄。だいたい、あまりに弱過ぎて、やってもぜんぜんおもしろくない。そんなのまるでホームレス狩りの中学生とか、オヤジ狩りの高校生とやること一緒じゃないですか。オトナがそんな卑怯で幼稚でみっともないマネできませんよ。

というので沖田の〈きりしま〉は地球に戻ってこれたのだろう。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之