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ヤマト航海日誌

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2016.5.26 白い山脈



帰ってきたぞ。帰ってきたぞ。帰ってこなくていいやつが。毎度毎度『ヤマト』とてんで関係のないこの日誌も帰ってきたぞ。黙って休みをいただきましたが、皆さんお元気でしたでしょうか。おれは休んでいた間、たまたま見つけた『トリポッド』という小説を読んでいました。

知っていますか、『トリポッド』。知らんでしょうね。おれも知らなかった。知っていたけど知らなかった。おれが持ってるカルマーニュちゃんみたいなものは、そのテの雑誌じゃふつう〈トライポッド〉と書いてるもんでもあった。

だから今まで背表紙を図書館の棚で見ることあったとしても、前を素通りしてたんですよ。けれどたまたま、この間、表紙を見ちゃったんですよ。で、いやもう、これがですね。〈白い山脈〉を目指して旅する男の子の話なんだ。

山脈よ。赤道直下にありながら雪をかぶった白い山脈、スタンレー。ヨーロッパとアジアを分けるこれも白い山脈、タロス。これだぜ! これがロマンだぜ! というわけで、〈魔女〉との戦いについに突入するにあたり、例によって『ヤマト』となんの関係もない話をここに書くのである。興味のない方はすぐ閉じること。

話はおれが宇都宮にいた最後の頃、中学一年に遡(さかのぼ)る。学校の図書室にあった本をおれは手に取り読んだんだね。題は忘れたが表紙の画は、ウェルズの『宇宙戦争』に出てくるような三本足のロボットが、ムチみたいな触手で人間を捕まえて宙高く持ち上げているものだった。著者の名前も忘れたが誰か外国人だった。

これがおもしろくってねえ。おれは夢中で読んだのよ。〈三本足〉はウェルズのあれと同じく異星からの侵略者のロボットだった。ウェルズのあれと違うのは、その侵略が成功し、地球の民はエイリアンに支配されてしまっていること。〈三本足〉は人々を見張る監視役であり、ガチャンガチャンと上から見下ろしノシ歩いては、ちょっとでも反抗的な素振りを見せた地球人を触手でもってブチ殺すのだ。

だが、ある村の少年のもとに、旅の男が現れて告げる。おれはやつらとの戦いに加わる者を求めに来た。志(こころざし)が君にあるなら旅をしろ。海を渡って道を行け。

雪を被った白い山脈を君は見る。そこにやつらに抵抗するおれの仲間達がいる。行けば迎えてくれるだろう。

おれは一緒に行ってはやれない。誰も案内する者はない。だから君は自分で行くんだ。道を探してひとりで行くんだ。苦しい旅になるだろう。危険なこともあるだろう。たどり着くのは難しい。それでも、君が男なら、勇気で越えろとおれは言う。〈白い山脈〉を目指すんだ。

なんてなわけで少年は冒険の旅に出るのである。そしてもちろん三本足ロボに追われるわけである。とにかく、宇宙侵略者と戦う少年の旅の物語なのだ。とくれば、『ヤマト』に関連がまったくないってこともなかろう。おれがここでその本の話をしてもいいだろう。で、おもしろかったんだけど、読み終えたところでおれは衝撃の事実を知ったのだった。

なんとなんと、巻末の解説を読んでみるとだな、おれがそのとき読み終えたのは全三巻の一巻目で、この続きがあと二冊あるだなんていうんだよ。しかしだ、その図書室には、その〈第一巻〉しかないんだよ。こんなことがあっていいのかおいコラア! 続きを読ませろコンチクショーッ!

いやはや、おそらく皆さんも、どこかで似たような経験をされたことがあるでしょう。うん、きっとおありでしょう。まったく、困ってしまいますよね。このモヤモヤした感情をどこに持っていけばいいのか……。

で、その後すぐ下妻に引越しとなりまして、本の題名も著者名も忘れてしまったおれは続きを読みたくても探しようもなくなってしまったのでした。まあ、ひとつ手がかりがないこともなかったんだけど。

本の題名は忘れたけど、『愛と青春の旅立ち』だったかそれとも『恐妻天国』だったかそんな感じだったと思う。でも解説には原題は〈白い山脈〉という意味だと書いてあった。『白い山脈』か、ふうん……というので、そっちの題がおれの印象に残っていた。

シャーロック・ホームズにとってA・アドラーは常に〈あの人〉である。おれにとってあの本の題は『白い山脈』である。あの話の続きはどうなったんだろう。ひょっとしてどこかで読むことできるんだろうか。おれはときどき、ふと考えることがあった。大人になってもそれは続いた。だからといって本気で探そうとしたことはなく、どうせ無理だろと思ってしまってもいたのだが……。

しかしですよ、お客さん。それがついこないだの五月連休のことですよ。おれの〈ヤマト〉がワープするところまでを書いてアップし、ヤレヤレまた当分は休んでやるぜザマーミロと思った翌日のことですよ。図書館のいつもの『ご自由にお持ちください』の棚に《除籍済み》のシールを貼られて一冊の文庫本が置いてあったと思ってください。題は『トリポッド 1 襲来』。手にしてみると表紙の画はウェルズの『宇宙戦争』ふうの――。

え?まさかな、と思いつつ持ち帰ってまず巻末の〈訳者あとがき〉を読んでみた(ええ、今ではそうしてます)おれは、そこに書かれた内容に仰天したのでありました。これは欧米の少年層に長く読まれて日本でもかつて一度訳されたことのある三部作本の前日譚として後から書かれたもの、つまり『スター・ウォーズ』でいう〈エピソードI〉みたいなものだというじゃありませんか。全四巻で新訳する〈エピソードII〉となってしまった旧三部作第一話(ああややこしい)は、三本足ロボットに支配された未来世界を少年が旅する物語。〈ランボー 怒りのナントカ〉みたいな題で続けて出すその原題は『The White Mountains』と書いてあるじゃありませんか。

ザ・ホワイト・マウンテンズ! 身に震えが走りましたね。これだ。もう間違いない。ずっとずっと思い続けたおれの『白い山脈』だ。で、急いで検索してまとめて借りて読みましたよ。

うん、確かにそうでした。十一年前の2005年、おれが知らんところで出ていたんですねえ。こういうものはあらためて読んでみると『アレ?』となって、あのときどうしてこれをいいと思ってしまったんだろうということになりがちなもんですが、この新訳の場合は違った。いい。これはいいぞ、皆さん!

ハヤカワ文庫の『トリポッド』シリーズ全四巻。著者はジョン・クリストファー。少年が宇宙からの侵略者と戦う旅の小説でいいのがないかとお求めの方がありましたら、このおれが自信をもってこのシリーズを推薦するぞ。

おそらく君がこの四冊を君の職場や学校に持って行ってだな、休み時間に机に積んで一冊手にして読んでいたなら、きっと誰かが『おもしろそうなの読んでるね』と言ってくれることだろう。これはそういうものである。実際、このシリーズは、欧米では版を重ねる人気作であったらしい。おれは知らなかったけど、〈訳者あとがき〉によるとどうやらディズニーが2005年頃映画化しているらしい。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之