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ヤマト航海日誌

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2015.4.28 西崎義展からの手紙



おれは西崎義展から手紙を受け取ったことがある。

というのは半分本当で半分嘘だ。こう書いたら、オールドファンには『ハハア、あれだな』と思う者がいるかもな。あのときおれと同じ〈手紙〉を受け取った人間は、何万人もいるはずだから。

元はと言えば、『さらばヤマト』の豪華ムック本だった。バンダイの『ヤマト』シリーズ・プラモの箱にハガキが一枚入っていて、これが通販の誘いなのだ。

子供がお年玉持ってる冬に、その作戦は実施された。全国ヤマト・ファンの諸君、君もこのハガキを送り、七千円の豪華ムックを手に入れよう!

小学校四年のおれは、その分厚いハードカバー豪華本を手に入れた。長きに渡ってそれはおれの宝だった。来る日も来る日も、来る日も来る日も、おれは本のページをめくり聖書を読むがごとくに己を埋没させたのである。ああ、なかったことにしてえ……。

でもまあ、まだ、小学生で『さらばヤマト』だからいいよな。中学生で『ガッチャマン』に夢中になってた出渕裕よりはマシだと思ってバチは当たらないよね。

言っておくけど、別に決して『ヤマト』にばかり夢中になってたわけじゃないぞ。今回の論旨に必要と思うのでちょっと書いておくけれど、当時のおれは栃木県の宇都宮市に住んでいた。

吊り天井で人を殺して餃子の具にしてしまうと言われるあの宇都宮だ。小学二年に引越しで友達と別れた話をこの日誌の第一回に書いたけど、親の仕事で家を越すことになったのは友じゃなくおれの方だった。で、中学一年までいた。おれが小学三年のときに『ヤマト』のブームが起きて、中一のときに『ガンダム』の劇場版三部作が作られる。ふたつのブームをこの街でおれは体験したわけだ。

宇都宮は子供がこの時期を過ごすのにたぶん最高の街だと思う。中心には映画館がたくさんあって、『ヤマト』『ガンダム』の他『ドラえもん』の第一作『のび太の恐竜』や『銀河鉄道999』『スター・ウォーズ』なんかも見たし――やっぱりアニメしか見てないじゃないかと言うなよ。遊園地や動物園やプラネタリウムや屋内温水プールとか、それからええとなんだっけな、とにかくいろいろ子供が遊べる施設があったし、ちょっと出たならすぐ自然に囲まれて、小学校には牧場の馬を眺めて通っていた。

放課後には小川で雑魚釣りなんかしてたし、射撃場にライフルのタマを拾いに行ったり、貝の化石が見つかる場所に友達と行ったりなんかしていた。自転車で行ける範囲にとにかくいろいろあったのだ。結構立派な野球場もあったし、競輪場の大人の群れを怖々眺めたこともあった。実はおれの小説でちょっと地下都市のモデルにしている。

さてなんだっけ。そうそう、西崎義展の手紙だ。小学校を卒業する少し前、家に帰ると「なんかあんたに手紙が来たよ」と親が出した封筒の差し出し人が西崎義展。

「えーっ?」と思って開けてみると、『ヤマトを愛するみなさんへ』なんて印刷された手紙が入っていた。明らかに、あのムックを買ったすべての無駄遣いに送ったものに違いない。おれの名前と住所はしっかり記録されていたのである。

文の内容は『ヤマトを見捨てるな、ガンダムなんか見るな』という調子のものであったが、遅い。その頃テレビで『ヤマト3』がまだやっていたと思うが、おれはとっくに見るのをやめていたのだから……。

で、それと宇都宮となんの関係があるのかって? だから、それは、あれですよ。アニメばっかり見てないで子供は外で遊びなさいという話で、中学生にもなったらあんまりしょうもないアニメを見るのはやめましょうという話です。七千円でおれはいい勉強したなあ。みなさんも変な手紙を送ってくるストーカーには気をつけようね。危ないやつに同情すると、人生ブチ壊されかねませんよ。

(付記:ちなみに、おれが住んでいた頃には、宇都宮は〈餃子の街〉を謳っていなかった。宇都宮市が餃子で街おこしをしたのはおれが引っ越して十年ほどした1990年代初めのことらしい。)



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之