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ヤマト航海日誌

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2019.5.24 新谷かおるは『エリア88』で何を描きたかったのか



手元になかった『エリパチ』を最近全巻手に入れて読んだ話を前回書いた。それからマンガは読んでいないがアニメで見ている『デスノート』の話も書いた。今回はこの二作の違いについて考えてみよう。

『違い』も何も、その二作は全然違うと言ってはいけない。これはどちらも世界を支配しようとするひとりの男の野望を止める物語だ。『エリパチ』では神崎悟。『デスノート』では夜神ライト。神崎悟は自分で自分を悪魔と呼んで、夜神ライトは〈新世紀の神〉だと名乗る。

正直に言って、『エリパチ』の完成度は高くない。神崎悟という人間が、なんだかさっぱりわからない。これが最大の問題で、シンと最後に対決するまでの展開をあらためて読んでも、「無理に話を作ってんなあ」という印象しか持てない。

神崎悟は〈プロジェクト4〉の陰謀で何がやりたかったのか。

ただたんに風間真と戦闘機によるチキンゲームがやりたかっただけではないのか。

そうだとしても辻褄の合わないことだらけだが、『いきなり最終回』って本に載ってる新谷かおるのインタヴューには、結末をどうするかは連載の開始当初から決めていたと書いてある。これは嘘でもないんだろうが、他にいくつも連載を抱え、締め切りに追われながらの執筆でストーリーは迷走し、シンは一時はアフリカで本筋とはなんの関係もないとしか思えぬ紛争に身を投じることになる。

当時におれは〈ビッグコミック〉を毎号コンビニで立ち読みしながら、『このマンガはどこに向かっているのやら』と心配でしかたなかった。

さて一方で『デスノート』だ。おれはこっちは連載中には知らず、映画になったのを地上波放映で初めて見て、アニメも再放送で見た。ふうん、まあおもしろいけどしかし、無理は多いな。多いけど、完成度は高いと言っていいだろう。何より『エリア88』と違って夜神ライトという人間が、何がやりたくてこれをやるのかわからないわけではない。

そう思った。思ったが、同時に大きな疑問も感じた。夜神ライトは〈デスノート〉で、悪や自分に逆らう者に裁きを下していると言えるか? ただ殺してるだけじゃないのか?

死神リュークはライトに言う。「〈デスノート〉を使った者は天国にも地獄にも行かない」と。このセリフを聞いた瞬間におれは思った。『え? それって、天国と地獄があるってこと? 普通はそのどっちかに行くってこと?』と。そして思った。『だったら』と。

だったらライトのやってることって、まるで意味がないんじゃね? 悪いやつはどうせ地獄へ行くんだろ? そこで閻魔大王だか誰かの裁きを受けるんだろ? だったら夜神ライトはたんに、そこに人を送ってるだけだ。裁きを下しているわけではない。

閻魔のもとにそいつが行くのが、今日になるかそいつの本来の寿命になるかだけの違いだ。そいつが行くのが天国になるか地獄になるかを決められるわけですらないのなら――。



 それは『裁いてる』とは言わない。ただ『殺している』だけだ。



『デスノート』については前に書いたよな。あれが完全にリミッターを外したときのおれの文、自分で自分を制御できなくなったときのおれの文だ。北朝鮮やミャンマーで〈デスノート〉は役に立たん、ああした国の悪いやつの顔と名前は出ないからだ、なんてなことも書いたけど、しかし対して、『エリア88』。

あらためて読んでみると『ううむ』と思う。風間真がアフリカに行き、バンバラという国の大統領と話すところだ。ここは引用するしかないが、


   *


大統領の息子
「父は、このバンバラを独立させるために戦ったんです。それが適していたのかどうか… 国民の生活所得は、独立以前の方が高かったときいています。植民地時代にヨーロッパの文化が流れこんで、生活レベルは上がっていたんです。上水道、下水道、電話、放送にいたるまで…… ところが、独立すればそういった施設を維持できない…技術もないし予算もない… これじゃ…独立なんてしないほうがよかったのかもしれません……」

エラー
「え? これがデパート? なにもないじゃん」

大統領夫人
「独立以前は白人専用で、品物もいっぱいあったんですけど…」

風間真
「ダイヤやウラニウムの埋蔵量は、かなりあるときいてます。手掘りにせず、採掘機械を大量に輸入したとしても採算はとれるはず…」

大統領
「ははは…甘いね。機械で大量に掘りだしたいのはヤマヤマだが… あいにくと、ヨーロッパはその機械を売ってはくれん。よしんば…機械を導入しても、それを使いこなせるだけの技術水準がない。技術者の絶対数が不足している。学校教育も熱をいれてはいるが、まだ非識字率は48%と… 国民の約半数が自分の名前さえ書けないありさまだ。独立してわずか8年だ… まだまだ時間がかかる… 試行錯誤のくり返しでな…」

風間真
「……………………………… アスランは…まだましだったんだな……」


   *


うううむ。どうだい、ええ? すげーよなあ。こういう部分に関しては、やはり『エリパチ』、『デスノート』の数段上だな。ってゆーか、『デスノート』が基本的に話そのものは幼稚なんだが、君、これ読んでどう思うかね。

夜神ライトは人を裁いてなんかない。ただ殺しているだけだ。それで社会を良い方向に変えられると信じているが、日本人はバカなままだ。

夜神ライトの野望が実現したならば、どいつもこいつももっとバカになるだろう。教育水準は落ちていき、自分の名前をひらがなで書くことすらもできないやつが52パーセントになるだろう。勉強できる48パーは、ただ勉強ができるだけで、自分の頭でものを考え決めることができない人間ばかりとなるだろう。

それを利口バカと言い、夜神ライトが利口バカであるように誰もが利口バカになる。夜神ライトが〈新世紀の神〉になるため世界の悪い人間を一千万人殺さなければならないとして、十秒にひとり、毎日毎日休むことなく、一日のうち八時間を粛清にあてたら日に2880人、達成に丸十年かかる。そんなことが可能だとして、やり遂げたならバンバラという国はちゃんと彼らのものになるのだろうか。識字率は百パーになり、国は豊かでみんなが街で買い物できるようになるのか。



 なるわけがない。



夜神はたんに、人を殺しているだけだからだ。それでは何も変えられない。世界を変えることはできない。結局のところ〈AK〉が、世界を支配することだろう。親にもらった名前を捨てたポル・ポト派の兵みたいなやつらが、人を殺してまわるだけ。

それがこの日本にも及ぶことになるだろう。〈彼ら〉は写真に撮られない。六木剛がカメラを向けると、〈AK〉のタマが飛んでくる。ゆえに夜神ライトは無力。

〈デスノート〉は最悪の大量殺戮兵器などではない。その名は〈AKライフル〉のものだ。アスランはまだマシだった。サファリ・ラリーのコースには、クルマに向かって槍を投げるナントカ族が待ち構えている。彼に名前があったとしても、それが何語でなんと読むかも夜神はわからないだろう。大戦中の日本軍が、ナヴァホ語で出来た暗号を決して解けなかったように。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之