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つだみつぐ
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農薬の話

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2-6.化学物質過敏症について




 「農薬の毒性」の最後は化学物質過敏症のことを書こうと最初から決めていたのだけれど、その時点では私は過敏症のことをほとんど何も知らなかった。以前に見たアメリカ映画の中で若い女性がクリーニング店の前で突然昏倒し、その後都会で暮らせなくなって山林の中にある過敏症の共同体で暮らす、というシーンを覚えいて、ああ、こんな事もあるんだ、という程度の認識であった。これからぼちぼちインターネットで調べようか、と考えていた。
 そんな今年の1月、毎年恒例の「九州山口火の国有機農業の祭典」の案内が届いた。今年は佐賀県開催で、前回9年前の佐賀の開催の時にはひどく失望して、「佐賀か。今回はパスしようかな」と思っていた。
 参加しよう、と決めたのは2日目午前中に大阪の吹角という名の医者を講師とする過敏症の講演がある、とプログラムにあったからだ。タイミングがいい。
 祭典自体は思った通り不満の残るものだった。しかし吹角氏の講演は私の予想を超えた。
 講演はスライドを使って論理的で明快であった。会場は静まりかえり、みなが一言も聞き逃すまいとしていた。
 私は聞きながら深い衝撃を受けていた。なぜこんな事態が進行しているのに私は無知で無関心だったのか。
 その後、いろいろなサイトを調べたり書籍(文春新書「化学物質過敏症」)を読んだりして、その思いは深まるばかりである。
 
 化学物質過敏症とは超微量(健康人が気づかないほどの)の化学物質(正確には人工的に合成された化学物質)を呼吸器経由で摂取したとき、吐き気・めまい・発疹などから昏倒・意識混濁にまでいたる激しい身体・精神症状に陥る病気である。
 発症のきっかけは、シックハウス症候群・シックスクール症候群・散布された有機リン系農薬の3種がある。
 シックハウス症候群は厚労省がようやくその存在を認め対策に乗りだしたこともあり、比較的知られるようになってきている。壁の合板の接着剤に含まれるホルムアルデヒト・シロアリ防除剤などが原因である。シックスクール症候群は床のワックスに含まれるトルエンなどが原因である。
 シックハウス・シックスクールとも(英語圏ではまとめてsick buildingというそうである)頭痛・吐き気・下痢・目の異常・鼻水・ぜんそく・筋肉痛・倦怠感・疲労感などの多種多様な身体症状が重複して現れ、やがて一過性記憶喪失・そううつなどの精神症状にいたる。ただし症状の個人差は大きい。
 吹角氏の講演ではご自身が家族ともども新築のマイホームでシックハウス症候群になり、家を出なければならなかった経験から、皮膚科の開業医でありながらこうした問題に取り組むようになったとのことであった。患者達の豊富な実例は私達の想像を絶した。大阪のある小学校では床のワックスをトルエンを含まないものに変えたとたん、不登校児の半数が元気に登校するようになったとのことである。この最後の実例は、私達が「不登校児童」に対して大きな考え違いをしてきたのではないか、という深刻な問題を示唆する。
 この段階では原因となっている化学物質に応じた薬剤が治療に使われる。しかし、本質的な対策はとりあえず「逃げ出す」事であろう。その家を離れる・学校や会社なら行かない。そして原因物質の除去・不使用に取り組むべきだろう。
 この段階を放置する、あるいは軽傷のため別の病気と判断して対応が遅れる(長崎県には「化学物質過敏症」という病名をつける医者は一人もいない、とのこと)ばあい、次の段階に移行する。狭義の化学物質過敏症である。
 第2段階では原因となる化学物質に対する「感度」がどんどん「上がる」。つまりどんどん微量で発症するようになっていく。
 第3段階ではその他の化学物質で同じように発症するようになる。何に反応するかは人によって違うが、重度の場合数十年前の家屋にしか住めなくなり、街を歩いたり乗り物に乗ったりすることができなくなる。どこかに揮発性の化学物質があるからである。病院にはとても行けない。病院はその性格上頻繁に「消毒」するし、多種多様な化学物質に溢れている。こうした方々のブログを読むと彼女らの(患者は女性が多い)日常生活の不便さ、裏返せば私達の文明がいかに無数の化学物質に支えられているかに唖然とする。なお、パソコンも何らかの揮発性化学物質が使われているらしく、パソコンのスイッチを入れるだけで頭痛・発熱する、との報告も多い。こうなると外界との交渉まで絶たれてしまう患者も多いのかもしれない。
 ちなみに英語圏では第2段階を Chemical Sensitivity(CS)=化学物質過敏と呼び、第3段階をMultiple Chemical Sensitivity(MCS)=多種化学物質過敏と呼んで区別する。

 さて、上記の説明は化学物質過敏症が存在する、との立場からのものである。しかしながら存在しないあるいは存在は立証されていないという立場の方が実は多いのである。

 厚生労働省の平成16年の「室内空気質健康影響研究会報告書:〜シックハウス症候群に関する医学的知見の整理〜」という文書を見てみよう。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/02/h0227-1.html     
 平成16年2月27日に厚生労働省は「室内空気質健康影響研究会報告書:〜シックハウス症候群に関する医学的知見の整理〜」という文書の概要を公表した。国内の研究者(医学部教授など)を集めて平成15年に3度開かれた「室内空気質健康影響研究会」の報告である。
 「室内空気質健康影響研究会は、室内空気質の健康影響について、これまでに実施されてきた調査研究で得られた医学的知見を整理することを目的として開催されたものであり、主として「シックハウス症候群」及び「MCS(Multiple Chemical Sensitivity:多種化学物質過敏状態)/化学物質過敏症」の2つの論点について議論を行ってきた。」(概要序文)
 MCSについては「化学物質が生体に及ぼす影響には、これまで、中毒とアレルギー(免疫毒性)の2つの機序があると考えられてきた。これに対し、近年、微量化学物質暴露により、従来の毒性学の概念では説明不可能な機序によって生じる健康障害の病態が存在する可能性が指摘されてきた。」
 その後これを巡る各国の議論を紹介し、「このように、MCSの病態の存在を巡って否定的見解と肯定的見解の両方が示されてきた。」「非アレルギー性の過敏状態としてのMCSの発症メカニズムについては多方面から研究が行われており、最近では、中枢神経系の機能的・器質的研究と、心因学説に立脚した研究報告が多数なされているものの、決定的な病態解明には至っていない。しかしながら、その発症機序の如何に関わらず、環境中の種々の低濃度化学物質に反応し、非アレルギー性の過敏状態の発現により、精神・身体症状を示す患者が存在する可能性は否定できないと考える。」
 引用が長くなりすぎるので興味のある方はサイトを見て欲しい。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/02/h0227-1.html
作品名:農薬の話 作家名:つだみつぐ