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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

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想いと想い



音のない世界。月明かり。伊吹は森に立っていた。夜毎自分を呼び止める瑞はいなかった。夢が、変化している。紫暮が言ったように、進んでいるのだろうか。森の奥へ進みたいという渇望が、足を踏み出させる。

瑞を知るために京都に来た。大いなる覚悟を伴って。だからなのか、警告を発する者は消え、伊吹の前には秘密を隠した森だけが横たわっている。

(この奥に、きっとあるんだ・・・)

瑞の秘密が。
怖いものをみるだろう。瑞はそう言っていた。だが、見なくてはいけないのだ。どうあっても。

夏草の、匂い。風はない。月明かりが降る森を、伊吹は誘われるようにして歩く。裸足だった。柔らかな感触。木立の隙間を縫う青白い光が作る影を踏みながら、歩く。

「・・・池?」

木々の隙間を抜けると、開けた場所に出た。池だった。風がないためだろう、鏡のように月を映し出している。

(・・・誰か、いる)

池のほとりに、こちらに背を向けてかがみ込んでいるのがわかった。見覚えが、あるような気がする背中。月明かりに逆光で、黒い影のように見えた。

「・・・誰?」

声が震えているのがわかる。答えはない。おそるおそる近づくと、背中を向けている人物の前に、何かが横たわっているのが見えた。白いのは、着物の裾だろうか・・・そして黒い、長い髪が、草の上に・・・。

「誰だ!何してるんだ!」

声を荒げると、音もなくその人物が立ち上がる。伊吹は見た。その人物の足元に横たわっているのは、瑞だった。白い装束と、乱れた黒い髪。そして。

「っ・・・・・・!」

こちらを向いて見開かれた瞳。その目には光も闇もない。虚無が巣食ってあらぬ方を見つめている。死んでいるのだと、ひとめでわかった。

「瑞・・・」

だめだ。これは、みてはいけないものだ。

「・・・おまえは、誰だ・・・瑞に、何を、した・・・」

伊吹の本能が警告する。伊吹はあとじさる。立ち上がった黒い影が、ク、とこちらを振り返ろうと首を動かすのが見えた。

これが誰か知っている。だけど見てはいけない。見てはいけない。見てはいけない!