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ihatov88の小咄集

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86隠れたアスリート 9/1



 世界中のアスリートたちが集まる陸上大会。何でも金メダルを取れば一生いい生活ができるとか。そんな話は自然と共に生きるサバンナの部族にも知れ渡っていて、現代では長老の家にあるテレビでその大会を見ることができる。今日は長老の家にサバンナの戦士たちが集まってテレビでその祭典を観戦していた。
「おう、あいつスゲーぞ」
「あんな遠くまで投げているぞ」

 血気盛んな戦士たちが興味をひいたのはやり投げ。槍をもって獲物に立ち向かう彼らにとって最も身近なものだ。テレビに映る彼らは自慢の槍を軽々と遠くに投げている。金メダルを取れば一生いい生活ができると聞いている戦士の一人が名乗りをあげた。
「俺だって、あれくらい投げられるぜ。俺たちは戦士だからな」
「そうだそうだ!あんなやつらなど俺たちの敵じゃねえ」
盛り上がる若い戦士たち。金メダルを取って富を得たいのか、アスリートたちに自分達を誇示したいのか、テレビの前で若者たちは円陣を組んで踊り始めた。

 円陣は中央で観戦していた長老の前で止まり、うち何人かが長老に直訴した。
「長老、俺たちだったらあんな奴らよりも槍を投げられるぜ」
「槍の扱いなら俺たちの方が絶対に上だ」
「金メダルを取って部族のすごさを見せつけましょう」

興奮する戦士たちを前に長老はゆっくり立ち上がり一言、すると戦士たちはおとなしくなり、自分の槍の手入れを始めた――。

  「大事な武器を、投げたらアカン」

 知られてないだけで隠れた世界記録はいっぱいあるかもしれません……。

作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔