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指差す先に

朋尋が消えた教室を見渡す。静かだ。誰もいない。
月明かりがぼんやりと教室の輪郭を浮かび上がらせる。壁の染み、黒板の汚れ、机と椅子が並ぶ様は、うなだれた人間の列のように見えて不気味だった。

「･･･冷たい、」

古びた机に手を当てれば、ひんやりとした感触が伝わった。今はもう使われなくなった机。地蔵の佇む旧校舎。伊吹は一人ぼっちだった。それでも先ほどよりも冷静さを取り戻していた。

「神隠し･･･なのかな」

神様がお隠しになる。古来から日本に伝わる話を思い出す。神様？それとも、以前奥沢で遭遇した、夜を生きる何者かの仕業なのだろうか。

「だけど、あのときとは違う」

奥沢で対峙したものは、全身の毛穴が開くような畏怖に、身体を動かせなくなるほどだった。しかしいま、この校舎にそのような気配はない。静かで不気味で、だけどほんの少し高揚したような浮ついた気配がする。

神隠し、というよりは、かくれんぼ。
からかわれているというのか、遊ばれているような気がする。

「･･･！」

ふと気がつくと、教室の前方から闇が徐々に迫っているのが見えた。月が隠れたのだ。教室にはあっという間に闇が落ち、同時に懐中電灯の明かりも消える。徐々に、徐々に、光は浸食されていく。

先ほどの明るさが嘘のように、闇があたりを支配した。指先を目の前に持ってきても、輪郭さえわからないほどの闇。夜の闇だ。

「･･･だれ？」

闇の中に、気配を感じる。マコトじゃない、朋尋でもない。