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魔王様には蒼いリボンをつけて ーEpisode1ー

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【つないだ手】



「いいですか青藍様。矢尻というのは肉に食い込むような形になっていまして、それを無理矢理抜くと、」

 義兄(あに)の執務室。
 左手をルチナリスに預けたまま、義兄は執事から小言を言われ続けている。

「だいたい毒でも塗ってあるのが普通のものを素手で受けたりして、もしこれが銀だったら浄化されてもおかしくないところなんですよ」
「だってさ」
「だってじゃありません!」

 言われ始めてから早や1時間。頬杖をついてうんざりした顔を隠しもしない義兄の態度が執事の舌をさらに滑らかにしているのかどうかは知らないが、よくもまぁネタが尽きないものだ。
 まわりには興味深々の眼差しで見守っているガーゴイルの群れ。その黒山のせいで、広々としているはずの執務室がとても狭く感じる。
 まさか自分たちを取って食う機会をうかがっているのではあるまい。
 しかし、どう見ても彼らは人間ではない。

 だが。

 白い壁と紫檀の机。その背後の壁を一面覆う巨大な書棚。どう見ても見覚えのあるいつもの義兄の執務室。
 そこに何故、化け物が当然のような顔でいるのだろう。

「あの、青藍様。この人? たちは……?」

 左手に包帯を巻きながら、ルチナリスはおそるおそる義兄に問う。

「俺らはガーゴイルっす!」

 義兄より先に化け物たちが胸を張った。

 ……いえ、それは知ってます。本で見たことあります。その姿。
 ルチナリスは心の中でツッコミを入れた。相手は人間を襲うと言われている連中に酷似しているのだが、今のところ取って食おうという気はなさそうだ。
 魔王様の前だからだろうか。
 義兄を窺うが、頬杖をついたまま宙に向けられている視線がルチナリスに向くことはない。

「ここに来た勇者はまず俺らと戦うわけっすよ」
「俺らに負けるような雑魚は魔王様の前に立つ資格なんかないっす!!」

 聞いてもいないのに、懇切丁寧に教えてくれるのはありがたいと感謝すべきなのか……。だるそうに頬杖をついたままの義兄とは逆に、彼らのアピールが痛い。顔も怖いんだから迫って来ないで欲しい。

「あたしの回りで喋ってた声ってこの人たちだったんですね」

 ルチナリスはなるべく直視しないようにしながら、それでもガーゴイルに注意を向ける。
 動いているガーゴイルを見るのは当たり前だが初めてだ。危害を加えては来ないだろう、とは先程からの彼らの様子で察することができるけれど、しかし、あまり見たい外見ではない。見たくはないが、見ないでいると背後で口を開けていそうで油断できない。いくらこの10年で会話する仲になっていたとしても。
 そう言う意味では暗いところのほうがはっきり見えなくて良かったかもしれない。
 けれど、今から玄関ホールに戻りましょうというのもなにか違う。
 
 声はすれども姿は見えず、というのは結構怖い。空耳ではない声が何度も何度も話しかけてくる環境でよく普通に育ち、なおかつ返事までしていたものだと昔の自分に感心する。
 そして今、その声の主の全貌を目の当たりにして、姿が見えなくて本当によかったとも思う。この顔で話しかけられていたら絶対に会話どころではない。

「ずっと声だけで、誰なんだろうって思ってました」
「お前、小さい時にこいつら見て泣いたでしょうが」

 義兄の指摘に、そうだっただろうか、とルチナリスは記憶をひもとく。
 遠い昔に、おばけが出たと義兄に泣きついたことならあったような気もする。

「るぅチャンが怖がるから出てくんなって酷くねーすか?」
「文句があるなら、もっとましな顔に生まれ直して来るように」
「坊(ぼん)……酷(ひで)ぇ……」

 もう姿を隠す気もないのか、部屋中に溢れかえっているガーゴイル。それらが一斉にギャアギャア騒ぎ立てる声を聞いていると、まるで鳥の巣の中に放り込まれたみたいだ。


「いい加減にしなさい」

 そんなやけに明るいガーゴイルたちとは対照的に、ずっと苦虫を噛み潰したような顔をしている男がひとり。いつもの執事の鑑(かがみ)からは想像もできないほど苛々としているのがわかる。
 だが、その顔のまま彼が見下ろしているのは義兄だけだ。ガーゴイルたちを叱責した時でさえ、執事は義兄から視線を外そうとはしない。
 かなり居心地が悪いのだろう。義兄はと言えば顔を背けたままで、それがやはり叱られている子供にしか見えない。

「グラウス様怒ってるっす」

 執務椅子に座り込んでさっきからくるくると回っているガーゴイルが、背中の羽根をバタつかせる。

「坊(ぼん)が怪我なんかするからっすよー」
「……俺のせいかよ」

 能天気な声に、執事と目を合わせないようにしている義兄がぼやく。

「手を握りあってる時はこれはもう来たかとドキドキしたってぇのに!!」
「ちょっ、いつ手を握り合った!!」

 動かないで下さい。包帯が巻けません。
 ぞろり、と緩んだ包帯にまで不器用さを嘲笑(わら)われているようで、ルチナリスは今日何度目かの溜息をついた。