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ゾディアック 7

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~ 48 ~


私が感じる痛みは 「媒介的に他者を理解する為」
他者を理解する事は「媒介的に本質的な自分を理解する為」
ここでは いつも何かの媒介を通してしか、理解する事が出来ない。

外に見える 愚かさ、情けなさ、苦しみ の中に
本質としての自分という状態で感じられるか
それが鍵になる。

愛と光は「自らの状態の事だから」


胸の奥深くから 呼魂する声を聞いているだろうか?

アイがいつも あなたと共に・・
あなたがいつも アイと共に・・



私の腰は大分良くなっていた。
セラピールームの中で椅子に腰かけ、ボディセラピーの仕上げをしていた。
仰向けに寝た客の頭部にタオルを掛け、両手で包み込むように掴むと
こめかみにゆっくり指先を這わせながら、静かに頭皮をマサッサージをした。
後10分。アロマの香りに包まれ、客の静かな寝息と 心地よいヒーリング音楽に合わせ 私の身体もゆっくり揺れていた。
ギッ・・ギッ・・ 椅子の軋む静かな音色が心地良かった。

背後で足音と話声が近づいて来た、ミクがリフレクソロジーの客を案内して、私の後ろの椅子に座らせた。
50代前後の常連のマダムだった。

「 そーなのよぉ、本当にあのお店は 高級なお品が揃っていて素晴らしいわぁ 」
「 まあ・・よろしかったですね 」
甲高くけたたましい声が鳴り響き、ミクは圧倒されながらも務めて穏やかに接していた。

「 煩いな・・ 」眠っている私の客が起きないか苛ついたが「まぁ、もう終わるからいいか 」と思い直した。
確かめるように タオルの上から額を静かに押すと、グウー・・ イビキをかいた。
まだ眠っているようだ。タイマーを見ると後3分、私は静かに目を閉じた。
背後のマダムは、けたたましい声で 息子の何かお祝いの話をミクにしているようだった。

キーーン・・ 意識を失いかけた時、周りに車のエンジン音が聞こえた。
リアルな外気の音、突然 もうもうと上がる土埃の中に
軍服を着た沢山の兵士と軍人の姿が現れた。

幻視だ。

ジープから降りて来た 赤い口紅のスーツ姿の女性が、けたたましく話をしている。高級士官の婦人らしい。
親しげに一緒に降りて来た大柄の若い女性も軍服を着ていた。
ただ 彼女は静かに婦人に相づちを打っていた。

爆音が鳴り響き 戦闘機が低く飛んで来た
2人は空軍の演習飛行を見に来ていた。婦人の話す内容が・・
私の背後で今 リフレをしているマダムの声と重なった、だがリアルに感じるのは
軍事演習を見に来た幻視の2人の会話だった。

ムスコノタンジョウビパーティニ ゼヒ イラシテネ・・
プレゼントハ シロイ オウマニシタノヨ
ホシガッテタノ・・

「 この2人は・・ 後ろのミクとマダムの前世だ。
2人は知り合いだった。いつの時代だろう・・ 」
ギッ・・ギッ・・ 私の椅子が揺れて軋んだ


セプロン・・ セプロンハ・・
エラバレシミンゾク・・

「 セプロン?何世紀か前のツイードの国の呼び名だ 」
私は好奇心から もっと深く入っていった。
眉間は熱くなり クルクル回る菱形が現れた
ギッ・・ギッ・・

カシコイワ・・ アナタハエラバレシモノ
ワガミンゾク・・ セプロンノ

婦人は、将校女性を高く価っており大変気に入っていた。
彼女は・・ いや将校ではなく医者だ!何故医者が軍服をきているのだろう・・
私は更に深く入って行った・・

白衣を着た手術室のようなビジョンが現れた。何かの実験研究をしている
ミクは国家レベルの優秀な若き神経外科医だった。
彼女の父も医者で、子供の頃から男のように厳しく育てられた
母は幼い時に亡くなって、自分を価って親しくしてくれるこの婦人に母親を重ねていたようだ。

でも待て、この幻視がもし本当なら・・
この時代から まだ100年は経っていない。
通常、人の転生は最低でも100年を超えて生まれてくるはず

ピピピピ・・ 私のタイマーが鳴った。幻視は消え、私は目を開けた。
「 お疲れ様でした 」客を起こした。
部屋から出ると、マダムがまだ甲高い声でミクに自慢話しをしていた。

「 前世と変わらないな 」思いながら2人の前を通り過ぎた時
ゾゾーーーッ!いきなり寒気が襲った。
驚いて振り返ると、 底知れぬ程の暗い冷気が2人を黒く取り巻いているのが見えた。

ザワザワザワ・・ ザワザワザワ・・
何かが蠢いていた。

マダムの明るい声とは裏腹に、まるで・・ そこは死体安置所か墓場にいるようだった。
私は眩暈がして、その場に立っていれなくなり、バックの更衣室に倒れ込んだ。

「 大丈夫ですか?腰がまた?」ミオナが心配して入って来た。
「 あ、ごめん。腰じゃなくて、ちょっと気分がね・・ 」私はミオナを見て、ハッとした。
ミオナの顔も一瞬 若い将校の姿に見えたからだ。ミクとは違う国・・ 今私達がいるこの国だ。
「マリオンさん、休んでて下さいね。会計は私やっときますから 」ミオナはそう言うと、部屋を出た。

背中の悪寒は、益々酷くなりずっと あの甲高い婦人の声が聞こえていた。
「 早く帰らないかな・・あの客 」
今までに無い感覚だった。人の前世は沢山見て来たはずなのに
100年にも満たない近い転生だからか?今世の年齢を考えると、60年くらいか・・
マダムの方はもっと短い転生になる。

有り得ない!人の転生は 最低でも100年スタンで繰り返されるはずだ。
前世が近過ぎて、生きていても死者の感覚がリアルすぎる。

人は最後の断末魔を持ちこして来る・・ 死に方が問題なのだ。
私は ゾクゾクする悪寒に震えながら、自分の肩を抱いて座り込んでいた。

突然誰かに背中を摩られた「大丈夫ですかー」モーリーだ。
不思議と、寒気が治まって来た・・
「 うん・・大分良くなった 」
「 この前最後に入ったお客さん、大変だったらしいですね。腰まだ痛みます? 」

腰・・ モーリーが受付で電卓を叩く姿が スポットライトに浮かんで見えた、あの直後に入った客のことだ。
凝り固まった肉に埋没し、忘れてしまいたい何かを 思考でブロックした客だった。

「 絶対に見てはならないもの・・ 」

あの時感じた
まるでバリアでもあるかのように 私の氣を弾き、自分の中に 決して入れさせない
強固な霊的ブロックされたミクの氣も、あの客も、2人は同じだった。

そもそも、腰はきっかけに過ぎなかったのだ。私の身体は既に限界だったのだから 
あの事がなければ、整体のあの老婆にも出逢わなかった。
身体が私に「 使ってくれてあんたに感謝している 」と教えてくれた、ラファエルのような老婆。

最初は、修道士を轢いた気がして 急ブレーキを踏んで捻った時から・・
モーリーに 「 シーシア フランシス 」と聞こえた日

私の背中を摩るモーリーの手は温かく、震えと悪寒が消えて行くのが分かった。
背中に温もりが広がっていくのを感じた、まるであの老婆の感触だった
「 ラファエル・・ 」私は身体を起こし、モーリーの左手を掴んで彼女の顔を見た。

キイーーーーン・・
僅かな耳鳴りと共に 青いフラッシュバックが起こり 幻視が現れた。
作品名:ゾディアック 7 作家名:sakura