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りんはるちゃんでクリスマス話

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忘れ物



七瀬家でクリスマスパーティーが開催され、大いに盛りあがった。
プレゼント交換で凛が引き当てたのは筋肉の本だった。もちろん、それをプレゼントとして持ってきたのは江だった。
妹が筋肉フェチであることは以前から知っていた。それについては兄としてなにも言うまい……という気分だ。
やがて、パーティーは終わりとして帰ることになった。
凛たちは七瀬家から出て石段へ進む。
「じゃあ、俺はここで」
七瀬家の石段をはさんだ向かいに家のある真琴が優しく微笑んで別れを告げた。
それに対し、凛はうなずいて見せ、他の者たちは別れの挨拶をした。
真琴が自分の家へと歩きだすのと同時に、凛たちは石段をくだり始めた。
だが、石段の途中で凛は足を止めた。
「あ、忘れ物した」
江たちも立ち止まり、声をあげた凛のほうを見た。
凛は江を見て、続ける。
「取りにもどるから、先に行っとけ。すぐに追いつくから」
自然に言ったつもりだった。
けれども、渚がニコッと笑って言う。
「凛ちゃん、追いつかなくても大丈夫だよ! 僕たちが江ちゃんを家まで送るから」
「凛さんの家の近くにも駅がありますしね」
怜も言うと、江も笑って言う。
「だから、お兄ちゃん、どうぞごゆっくりー」
凛の意図は三人に完全にバレているようだ。
ここにもし真琴がいたなら、真琴にも気づかれていただろう。
凛は形良い眉をひそめた。
「バカ言ってんじゃねぇ」
三人に対し、ぶっきらぼうに言った。
そのあと踵を返す。
くだってきたばかりの石段を駆けあがる。
背後で江たち三人が石段をふたたびくだり始めたのを感じた。
少しして、凛は七瀬家の玄関のまえに到着した。
ちょうどそのとき、玄関の戸が引かれた。
遙が敷居の向こうに立っている。
その手には凛のカバンがあった。
「おまえ、これ、忘れていっただろう」
感情のこもらない声が告げた。
カバンを差しだされる。
凛が忘れていったのに気づいた遙は追いかけて渡すつもりだったのだろう。
けれども、凛はそれを受け取らずに無言のまま敷居を越えた。
自分のほうに進んできた凛に対して道を空けるように遙が移動した。
凛は家の中に入ってしまうと玄関の戸を閉めた。
それから、やっと、遙の手から自分のカバンを受け取る。
自分の手に引き取ったカバンから、凛は物を取りだした。
その取りだした物を遙に差しだす。
「これ、おまえ用だ」
無愛想な顔をして言った。
正直、こういうのは照れくさい。
クリスマスプレゼントである。プレゼント交換会では、自分の用意した物が遙の手に渡るとは限らない。それに、ふたりきりのときにプレゼントを渡したかった。
遙は無表情のまま受け取った。
「中を見てもいいか?」
「ああ」
凛の返事を聞いて、遙はラッピングを解き始めた。外された包装紙などは近くにある下駄箱の上に置かれていく。
やがて、梱包がすべて外されて、中の物だけが遙の手に残った。
凛から遙へのクリスマスプレゼント。
それは、遙がこよなく愛する某市のイメージキャラクターのぬいぐるみである。
ゆるキャラと言われているが、凛からすれば、キモ可愛いというか、正直可愛いとはぜんぜん思えないので単にキモいキモキャラである。
だが、その不気味さがウケるのか、熱烈なファンも多いキャラクターだ。
そのキャラクターのクリスマス時期限定発売のぬいぐるみである。
クリスマス時期だけに販売するというのではなく、販売個数が限られている物だ。
販売前に調査してみたところ、供給に対して需要が大幅に上まわっているようだったので、入手するためには余裕は一切なしと判断した。
だから、凛はミニスカサンタの格好をした不気味なキャラクターのぬいぐるみを購入するために、発売日当日、販売開始よりずっとまえの早朝、太陽がまだ姿をあらわさないころから、寒風吹きすさぶ中、そのキャラのファンの作る列に並んだのだった。気分はサメではなくペンギンだった。その苦労の甲斐があって、凛はレアアイテムを手に入れることができた。
凛としてはアクセサリーを贈りたかったのだが、自分が贈りたい物よりも、相手がもらって喜びそうな物を贈ることにしたのだった。
さて、その結果は……?
遙は眼を見張っている。
その口が開かれる。
「可愛い……!」
あまりの可愛さに衝撃を受けているようだ。
その感覚に凛はついて行けないものを感じながらも、ホッとする。
遙はぬいぐるみをじいっと見てた眼を、凛の顔に向けた。
そして。
「ありがとう」
礼を言った、その口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。
全開の笑顔ではないが、表情にとぼしい遙には目いっぱいの笑顔だ。
凛は努力が報われた気がした。
ミニスカサンタの格好をしているのを見て、おまえは女っていう設定だったのかよ、と内心ツッコミを入れたキモキャラのぬいぐるみを、寒さに耐えつつ並んで販売開始を待って入手し、それなのにプレゼントしても喜ばれなかったらどうしようかと思っていた……。
「だが」
遙は言う。
「プレゼント交換用以外、なにも用意してなかった」
その顔から笑みが消えている。
「すまない」
今度は謝った。
少し、しょんぼりとしている。
その様子を見て、凛は笑う。
「なに言ってんだ。プレゼント交換用以外なにも用意してなかったワケじゃねぇだろ。あんなにたくさん、いろいろと、料理、作っておいてくれてたじゃねぇか」
クリスマスということもあっただろうが、魚料理ばかり作る遙にしてはめずらしく今日は肉料理が多かった。
しかも、どれも、おいしかった。
「あれはおまえのためだけのものじゃない。みんなのために作ったものだ」
「いいんだ、それで。気にすんな」
凛は手をあげ、それを遙の頭のほうにやり、黒髪をグシャッと軽くかき混ぜた。
すぐに手をおろし、さらに踵を返す。
「じゃあな」
本当に気にしなくていいと思う。
遙からのプレゼントは期待してなかった。
苦労してまでプレゼントを用意したのは、喜ぶ顔を見たかったからだ。
寒い中、自分としては魅力を感じない物を手に入れるために並んで待っているあいだ、つらくはあったが、遙が喜んでくれるだろうかと想像すると楽しくもあった。
だから、充分なのだ。
目標は達成できた。
このあとは、江を追うつもりである。
しかし。
凛の腕を遙がつかんだ。
引き留められた。
なんだ、と思い、凛はふり返った。
遙の顔があった。
その顔が近づいてくる。
あ。
凛は遙がなにをしようとしているのか察した。
だから、自分も動く。
唇が重なる。
キスをする。
初めてじゃない。
でも、嬉しい。
けれども、残念ながら今はあまり時間がないのだ。
キスのあと、凛は遙を抱きしめながら、言う。
「来年のクリスマスはふたりきりがいい」
希望を伝えてみた。
すると。
「そうだな」
遙から同意する言葉が返ってきた。
いつもの感情のこもらない声が、少し温かい。
これで、遙の来年のクリスマスの予約は完了した。
凛は腕の力をゆるめ、遙を解放した。
それから、ふたたび踵を返す。
今度は、遙は引き留めてこなかった。
家の外に出る。
石段へと進み、駆けおりる。
外は冷たい風が吹いている。
けれども、凛は寒さを感じなかった。心が弾んでいて、身体に力がみなぎっていた。