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りんはるちゃんでクリスマス話

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もうすぐ



もうそろそろ日が暮れる時刻だ。
今日は天気が良くて、しかし、それでもやはり寒かったのが、ますます寒くなってきていた。
凛は遙とデート中である。
遙はコートにマフラーという格好で、凛の隣を無表情で歩いている。
買い物をして店から出てきたばかりだ。
ここは、遙や真琴の暮らすのどかな岩鳶町ではなく、渚や怜の暮らす都市部である。
街は休日ということもあり、ひとが多い。
それに。
「クリスマス一色って感じだな」
ボソッと凛は言った。
店内もそうだったが、外もクリスマスソングが流れ、クリスマスっぽい赤や緑や金色の飾り付けがあちらこちらでされている。
クリスマスはもう少し先だ。
けれども、街にはすでにクリスマスの雰囲気が満ちていて、楽しそうである。
「で」
さり気なさを装いながら、凛は続ける。
「ハル、おまえはクリスマス、どうするんだ?」
たった今ちょっと気になった、という感じで聞いた。
だが、実は、今日のデート中、ずっと聞きたくてタイミングを見計らっていたことである。
今年の春に再会し、夏にいろいろあり、秋の終わり頃につきあい始めた。
というわけで、つき合って間もない。
彼氏彼女として初めて迎えるクリスマスである。
いや、よく考えてみれば、小学六年生のころに凛が遙の学校に転校したのは年が明けてからで、小学校卒業後に凛はオーストラリアに留学したので、彼氏彼女としてではなくても、これまで凛は遙とクリスマスに一緒にいたことがなかった。
出会ったのが昔なので長いつき合いのようにも感じるが、実際は、一緒にいた日数を全部足しても一年に満たないのだった。
それはともかくとして、クリスマスだ。
凛としてはもちろん遙と過ごしたい。
だが、問題は、相手が天然の遙であるということである……。
「クリスマスか」
遙が無表情のまま小首を軽くかしげた。その動きに合わせてサラサラした黒髪が揺れる。
「水泳部員たちがウチに来て、クリスマスパーティーをするらしい」
やっぱりか!
凛は胸のうちで叫んだ。
アイツら空気読めぇぇぇぇぇーーーーー!!!
岩鳶高校水泳部男子部員三人のさわやかな笑顔が凛の頭に浮かんでいた。
そして、きっと、自分の家でクリスマスパーティーをすることを提案されたとき、遙の頭には彼氏である凛の姿は浮かばなかったのだろう……。
自分がもっと早くにクリスマスの話題を出して遙の予定を押さえておくべきだった。
そう凛は悔やんだ。
「ああ、そういえば」
ふと思い出したように遙が言う。
「クリスマスパーティーにおまえも来るよう誘っておいてと言われていたんだった」
遙は凛をじっと見て問いかける。
「来るか?」
「……ああ」
ほんの少し肩を落としながら、凛はうなずいた。
ふたりきりを希望していたのだが、とりあえず一緒に過ごせるだけで良しとするべきなのかもしれない……。
「来るなら、プレゼントをひとつ用意しておくように。交換会をするそうだ」
「わかった」
凛は気持ちを切りかえ、自分が参加する予定のクリスマスパーティーを想像する。
そして。
ふと。
去年のクリスマスを思い出していた。
「凛」
遙が呼びかけてきた。
「オーストラリアのクリスマスも経験したのか」
まるで凛が思っていることを読んだような台詞だ。
凛はオーストラリアに留学中、年末年始には日本に帰国していたが、年末のぎりぎりまで帰っていなかった。
クリスマスもオーストラリアにいた。
オーストラリアで過ごしたクリスマスも楽しかった。
けれども、がんばってもがんばっても期待するような成績が出せずに、しょせん自分はこの程度なのかと落ち込んでもいた。
遙は続ける。
「サンタがサーフィンするらしいな」
「ああ」
「写真を見たことがある。あれはいいな」
いつもよりも強い調子で遙は言った。
「おい、なに眼ぇきらめかせて言ってんだ」
凛はあきれる。
「おまえの関心は水関係ばっかりだな。ってか、おまえが海で泳ぎてぇんだろ」
そう指摘すると遙は眼を丸くした。
凛は軽くため息をつく。
「なんでわかったって顔すんな。さっき、思いっきり、おまえの顔に、泳ぎたくて泳ぎたくてたまりませんって書いてあったぞ」
う、と言葉を喉に詰まらせたように遙が口をへの字に曲げた。
その顔を見て。
「まったく、おまえってヤツは」
凛は少し笑った。



「あ」
隣で凛が声をあげた。
日はいつのまにか暮れていて、空は黒く染まっている。
凛の視線の先にあるのは色とりどりのイルミネーションだ。夜の帳の落ちる中、いくつもの光が模様を描いている。
「綺麗だな」
そう言って、凛は笑った。
桜のプールで泳いでみたいと言ったころのような笑顔だ。
遙は無表情のまま、ういヤツ、と思った。