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漢字一文字の旅  第三巻

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八の五  【猫】



【猫】、けもの偏に「苗」。
「苗」は(びょう、みょう)と音読みし、(なえ)と訓読みする。
【猫】はどうも鳴き声が(みょう)に近いことから成り立った漢字のようだ。

中国では猫の鳴き声は(miao miao)だとか。
そして英語で猫は(mew)、(meow)と鳴く。
なんとなくわかるような気がする。

ならば犬は?
中国では 汪汪(wang wang)。
英語では(bowwow)。
日本ではワンワン、英語とはちょっと違うかな?

さて、夏目漱石は小説「吾輩は猫である」で書き出した。
 吾輩は猫である。名前はまだ無い。
 どこで生れたか頓(とん)と見當がつかぬ。
 何でも薄暗いじめじめした所でニヤーニヤー泣いて居た事丈は記憶して居る。
 吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。
 ……

さて、このような小説を書くくらいだから、夏目漱石はさぞかし猫好きだったのだろうと想像するが、ところがどっこい、どうも犬好きだったとか。
事実、ヘクトーと言う名の犬を飼っていたそうな。

ならば小説の猫は?
捨て猫だ。
その猫、追い出しても追い出しても家に入ってくる。ついに根負けし飼ってしまった。
だがこの猫、とんでもないヤンチャ坊主だった。家の中を駆け回り、爪で物だけでなく、人までひっかく。漱石は頭に来て、モノサシで猫を叩いてやろうと、よく追っ掛け回していたとか。

しかし、猫は病を患い、明治41年9月13日の夜に死亡した。
漱石は小説のモデルにしたこともあり、人間並みに扱ってやろうと思ったのか、友人4人に死亡通知を送った。

辱知猫儀久々病気の処、療養不相叶、昨夜いつの間にか、裏の物置のヘッツイの上にて逝去致候。
埋葬の儀は車屋をたのみ、みかん箱に入れて裏の庭先にて執行仕候。
但し、主人「三四郎」執筆中につき、ご会葬には及び不申候。
以上九月十四日。

しかし、これだけでは終わらなかった。
この死亡通知を受けた松根東洋城は高浜虚子に電報で、「センセイノネコガシニタルサムサカナ」と知らせた。
これに虚子は返電する。
「ワガハイノカイミヨウモナキススキカナ」(吾輩の戒名も無き薄(すすき)かな)と。

また鈴木三重吉からは「猫の墓に手向けし水の氷りけり」と返信があった。

さらに寺田寅彦からは句が寄せられた。
「蚯蚓(みみず)鳴くや冷たき石の枕元」
「土や寒きもぐらに夢や騒がしき」
「驚くな顔にかかるは萩の露」

ということで、吾輩の死亡は大層なことに、というか、仲間内で随分と盛り上がったようだ。
ただ、妻の鏡子だけは悲しみ、その後猫の月命日に鮭の切り身と鰹節飯を必ずお供えしたそうな。

ことほど左様に、【猫】、人間の世界と切っても切れない漢字なのだ。