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水泳バカップル

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ふたりの夜



夜、凛は遙の家に来ていた。
いつものごとく遙が料理したサバ料理を食べ終わったあと、凛が持参した世界水泳の録画を居間のテレビで再生し、畳に横並びに座る形で見る。
もちろん凛はすでに何度か見たものであるが、テレビの画面の中の選手の泳ぎに向ける眼差しは熱い。
その隣にいる遙は無表情だ。しかし、興味がないわけではなく、じっとテレビの画面を見ている。
テレビの画面の中の選手がゴールすると、凛は拳をぐっと強く握った。
「やっぱり何度見ても感動するな!」
同意を求めるように遙のほうに向けた凛の顔は明るい。
こういうときの凛はよく笑っていた小学生のころにもどる。
凛はさらに言う。
「オレたちもあそこに出られるようになろうな」
「……」
「おまえも、あそこで泳ぎてぇだろ?」
無邪気な表情で問いかけられた遙はテレビを見た。
遙の眼は選手ではなくプールに向けられている。
そして、遙はふたたび凛を見た。
「ああ」
力強くうなずく。
「だよな」
凛は嬉しそうだ。
実は会話は噛みあってはいないのだが、結局は同じ方向性に落ち着いた。
次の試合が始まり、凛と遙の眼はテレビのほうに向けられた。

何試合か放映が終わったとき、凛の手がさり気なく動きだした。
その顔はテレビに向けられたままである。
ただ手だけが動いている。
畳の上に置かれている遙の手のほうへ、近づいていく。
凛の手のひらが遙の手の甲に重ねられる。
遙の手をつかんだ。
「凛」
冷静な声で遙から名を呼ばれ、凛はビクッとした。
凛はおそるおそる遙のほうを見る。
遙はいつもの無表情だ。
しかし、凛を見る眼が少し厳しい。
「じれったすぎる」
そう文句を言うと、遙は立ちあがった。
「やりたいなら、やろう」
遙は凛に宣言した。
そして、潔く着ているものを脱ぎ上半身裸になる。
「え、え、や、やるって……」
凛は顔を赤くして戸惑う。
ふだんのぶっきらぼうな態度からは想像できないぐらい根がロマンチストな凛にしてみれば、もうちょっとムードがほしい。
できれば遙が着ているものは自分が脱がしたい。
だが。
やりたいのは事実だ。
好きな相手がすぐそばにいて、しかも自分たちは付き合っているんだから、当然だろォォォ!?
凛は胸の中で叫んだ。
ムードはいちじるしく欠けているが、自分にとっておいしい展開である。
ドキドキしている凛の眼のまえで、遙はなんのためらいもなく下にはいているものにも手をかけた。
それが、おろされる。
あらわれたのは。
水着、だ。
それも競泳用の早く泳げることが重視された水着である。
「……あ」
ここまできてからようやく自分が水着を着ていたことを思い出したらしい遙が短く声をあげた。
「……安心しろ、ハル。オレも下は水着だ」
とりあえず凛はフォローした。
しかし、ムードは完全に無くなってしまった。
凛の胸のドキドキも静まってしまった。
遙が畳に腰をおろす。
凛のほうを見ずに、遙は口を開いた。
「今度おまえとそうなりそうなときは水着はやめておく」
「オレもそうする」
そう返事すると、凛は眼をテレビの画面のほうにやった。
テレビの画面の中で水泳のトップアスリートたちが競い合っている。
何度見ても飽きない光景だ。
だが。
なぜか今は眼が見ていても心まで届かない。
凛は笑った。
そして、遙を見た。
遙は少し落ちこんでいる様子だ。
それを見て、凛はまた笑い、よくきたえられたたくましい腕を遙のほうにやった。
遙が眼を凛に向けた。
その戸惑っているような眼差しを受け止め、凛は遙のほうへ身を乗りだした。
ニヤッと笑う。
それから、遙を畳に押し倒した。
あおむけの遙の上に覆いかぶさる形になる。
遙を見おろし、凛は言う。
「ムードなくて、悪ィな」
すると。
「なにが悪いのか、わからない」
そう返事すると、遙は笑った。
テレビのほうから試合の様子を伝える声が聞こえてくる。
けれども、それに関心は行かない、今は。











作品名:水泳バカップル 作家名:hujio