二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

9話でりんはるりん話と9話感想

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

答えを探してる



祭の金魚すくいで金魚四匹を手に入れて、それを真琴に譲ったあと、遙は頃合いを見はからって真琴にだけ「ひとりになりたい」と告げて、みんなから離れた。
なんとなく歩いて、気がつけば、さっき真琴とふたりで話していた場所にいた。
自分の他にはだれもいない。
手すりの向こうを見おろせば、祭の灯りが連なっている。
にぎやかな祭の様子を遙は薄暗くて静かな場所から眺める。
熱くなるのはあまり好きじゃない。
だから、水が好きだ。
水泳部のみんなから離れたのは、一緒にいるのが嫌だからではなく、熱があがっているように感じて、それをさましたかったからだ。
遙は胸をおさえる。
胸の中の熱。
これまでの自分は泳ぐのに理由はいらない、ただ水を感じていたいだけだと思っていた。
でも、県大会のメドレーに出て、水泳部の仲間たちと泳いで嬉しいと思った。
水泳部の仲間たちと泳ぎたいと思った。
それを真琴たちに伝えた。
その想いは熱として胸の中にあり、今も、さめきってはいない。
おまえたちと泳ぎたいと言ったら、彼らは喜んで受け入れてくれた。
嬉しいと思う。
迷いが晴れたような気分だ。
でも。
理由が見つかって、受け入れられて、嬉しくて、迷いが晴れたような気分なのに、まだ、自分の中になにかがある。
それがなんであるのか、ひとりになって見えてきた。
凛。
もうおまえと二度と泳ぐことはない、と告げられたとき、自分の眼のまえが真っ暗になった。
二度と泳がないと宣告されて、なにもかもがどうでもよくなった。
それはつまり、自分はそれだけ凛と一緒に泳ぎたかったということ。
中学生のころに凛と泳いで凛に勝って凛を傷つけた。そのことが気になっていた。
でも、たぶん、きっと、理由はそれだけじゃない。
一緒に泳ぎたいんだ。
凛と一緒に泳ぎたい。
その想いが、今も、胸の中で、熱となって、ある。
この熱はなんだ。
答えを探している。



「先輩も地方大会のメドレーに出ることになりましたね」
祭から鮫柄学園の寮の自室にもどったとき、同室の似鳥から凛はそう話しかけられた。
「ああ」
ぶっきらぼうに凛は返事した。
さっき水泳部部長の御子柴に地方大会のメドレーに自分を出してほしいと頼んで、聞き入れられた。
県大会ではメドレーに出ていなくて、自分が地方大会のメドレーに出るということは県大会でメドレーに出た鮫柄学園水泳部員がひとり試合に出られなくなるということだと、重々承知の上で頼んだのだった。
自分勝手だとまわりから責められてもしかたない。
そうなっても受け入れる。
自分のやっていることのひどさなんてわかっている。
それでも、どうしても、メドレーに出たかった。
「七瀬さんたちが地方大会のメドレーに出るから、ですか?」
似鳥が問いかけてきた。
凛は答えようとして、だが、結局、やめた。
代わりに別のことを言う。
「外に出てくる」
凛は似鳥に背を向けて、部屋のドアのほうに向かった。
部屋はそんなに広いわけではないので、すぐにドアの近くまで来た。
ドアを開ける。
そのとき。
「県大会のフリーで七瀬さんに勝って、七瀬さんを越えて、それでもういいんじゃないですか?」
似鳥の声が凛の背中に飛んできた。
しかし、凛はその質問にも答えず、部屋から出た。
ドアを閉めて、廊下を歩く。
県大会で自分は遙に勝った。
遙を越えた。
だから、もういい。
そのはずなのに。
頭によみがえる。
県大会でのメドレー。
岩鳶高校水泳部のメドレー。
どうしてあそこで、彼らと泳いでいるのが自分ではないのか、もどかしかった。
でも、地方大会のメドレーに自分勝手なのは承知の上でどうしても出たい理由は、それだけじゃない。
凛は胸をおさえる。
自分の中に、なによりも鮮明に残っているのは、あのときの遙の泳ぎ。
それを思い出すと、胸が熱くなる。
一緒に泳ぎたいんだ。
遙と一緒に泳ぎたいんだ。
県大会では自分の専門であるバタフライではなく遙の専門のフリーのみに出場し、地方大会でメドレーに出られるように部長に頼み込んだのは、その想いからだ。
胸が、熱い。
この熱はなんだ。
答えを探してる。




祭から帰るまえに怜がトイレに行き、真琴は渚とふたりになった。
「……ハルちゃんって天然で、ちょっと残酷だよね」
ふと、渚が声をおとして言った。
その顔に浮かんでいるのは、苦い笑み。
真琴は首をかしげる。
「どうして?」
「だって、まこちゃんに、凛ちゃんと泳げないならなにもかもがどうでもよくなったって言うなんて、さ」
いつものように軽やかな声。
でも、言っていることは深い。
あのとき、遙が岩鳶高校水泳部員たちとメドレーで一緒に泳げて嬉しいと言ったあたりから渚たちは聞いていたのだろうと真琴は思っていたのだが、それ以前から聞いていたらしい。
真琴は微笑む。
その笑みが渚と同じように苦いものになっていないかどうかは、正直、自信がない。
遙がみんなと一緒に泳ぎたいと言ったのを聞いたときは、ただただ嬉しかった。
しかし、それ以前の遙の台詞を思い出すと、それが遙の本当の気持ちだろうから、自分にとってはつらい。
小学生のときも、高校生になった今も、真琴は遙にハルじゃなきゃダメなんだ、ハルと一緒に泳ぎたいんだと告げている。
それなのに、遙は凛にもう二度と一緒に泳ぐことはないと告げられて、なにもかもがどうでもよくなった。
真琴がどれだけ熱望し、それを伝えていても、凛の一言で遙は変わる。
遙の特別は、自分ではなく、凛だ。
「……そんなこと、ずっとまえからわかってたよ」
真琴は落ち着いた声で渚に話す。
「ああ、ハルが残酷だってことじゃなくてね」
誤解されたくないので、説明してから、続ける。
「いつかハルを、俺にはつれていけない高い所まで、凛がつれていくんだろうなって、ずっとまえからわかってたんだ」
答えを、自分はもうとっくの昔に知っていたのだろう。
ただ、気づきたくなかっただけだ。





ついに地方大会の日がやってきた。
試合までもうしばらく時間があるころ、他の部員たちと離れてひとりでいた遙と凛は偶然会った。
ふたりとも足を止め、向かい合う形で立ちつくす。
おたがい口を閉ざしたまま、静かに相手を見る。
少しして、ほぼ同時に歩きだした。
やがて、すれ違う。





おまえと泳ぎたい。





ともにありたいと思うのは、本能。
理性から離れたその感情の名を、ふたりともまだ知らない。