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彗クロ 4

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4-3



 大量の買い物袋を抱えながらアゲイトが室内に戻ると、ちょうど子供たちが着替えを終えたところだった。ほかほかと湯気を立ち上らせながら、真新しい衣装に軽く興奮気味のご様子だ。
「うっわナニコレ、隅から隅までサイズぴったし!」
「なんかキモッ。おまえヘンタイ?」
 おかえりの一言もなく、出会いがしらにこれはまた強烈な誹謗である。隅に置かれた高級感溢れる丸テーブルに荷を降ろしながら、アゲイトは気分を害したふうでもなく苦笑した。
「レグルとルークのサイズはケセドニアで測ったでしょう」
「あっそうだった」
「フローリアンのはディンからの密告(リーク)」
「ぎゃっ! ディンディンひっでー!!」
「砂漠縦断中の僕にわざわざ紙鳥飛ばしてきたくらいだからね。黙って出てきたこと、ちゃんと謝っといたほうがいいんじゃないかな? あとが怖そうだ」
「うきゃー……っ」
 フローリアンは両こめかみを押さえて派手に悶絶した。水兵服のエッセンスを取り入れて子供っぽく仕立てられた服が壮絶に似合ってしまっており、(主に性別的な)正体不明度が輪をかけて増強されている。それを胡乱げに眇めるレグルは、トップスは体に密着するタイトなVネック、ボトムスは七分丈のカーゴパンツと、歳相応というには少々尖った雰囲気がこれまた絶妙に似合っている。……と、アゲイトは自分の見立てに内心大いに満足した。サイズ云々はともかく、デザインに関しては文句のひとつも上がってこないあたり、本人たちも実のところ気に入っているらしい。それこそ砂漠縦断中に紙鳥を飛ばしてあらかじめ注文しておいた品だとは……不名誉の上塗りをされないためにも、黙っておくのが得策だろう。
「それにしてもずいぶん長風呂だったみたいだね。旅の垢は落としきれたかな?」
 袋の中身をテーブルの上に開けながら訊ねると、フローリアンがパッと顔を上げた。今泣いた烏がなんとやらだ。
「うはっ、聞いてよアゲイト、コイツ今まで一度もまともに風呂入ったことなかったんだって!」
「なっ、てめっ――」
「セッケン泡立つの見てあんなに怖がるニンゲン初めて見た〜! もー、タオルこすり付けただけでギャーギャー騒ぐのなんの。あんまり面白いから頭のてっぺんからつま先までてってーてきに磨き上げてやりました隊長!」
「それはそれはご苦労様。しかし、生まれてからずっとお風呂抜きって、なんだか壮絶だねぇ」
「アカの溜まりっぷりがリアルに三年分って感じで正直すんげーキモかった……! なーんかケモノ臭いとは思ってたんだよねー」
「ぅ、うっせー! まいんち川で洗ってたからいーんだよ!」
「お湯で洗い流すのとは全然ちがうっしょー? ホレ、心なしか肌色も明るくなってるし。キミ、日頃どんだけサバイバルな生活してたわけ〜?」
「……ケンカ売ってんじゃねーぞ都会育ちが!」
「あらやだ、野生育ちコンプある人には、こぉんな立派なスウィートルゥームで入浴なんてハードル高すぎましたっ? もしかして緊張しちゃったりなんかしてたのかなボクぅ? そーれはそれは気づかなくってゴメェンネェー?」
「――んのクソがっ!!」
 広々としたスイートルームはたちまち運動場と化した。保護者役は買ってもしつけの面倒まで見るつもりのないアゲイトは、不毛な追いかけっこをさらりと放置する。下階の宿泊客から苦情が上がりそうなものだが、何せ支払っている金額が一桁違うので、ケツ持ちは全面的にホテル側に押し付ける算段である。よしんば何がしかの苦言が上がっても、最終手段「文句があるなら『責任者』へどうぞ」という魔法の言葉があったりする。
「せっかく新調したばっかりなんだから、汚したり皺にしたりしないでねー」
 じゃれ合いがソファの上でもつれ合いに発展するに至っては、さすがに釘を刺しておいた。めったな格好で外に出られるのは困る。
 レグルに馬乗りにされながらきゃあきゃあ騒いでいたフローリアンは(そこだけ見ると不思議と面倒見のいい兄貴分に見えないこともない)、言われてはたと動きを止めた。途端に手足の寸法差を生かして軽やかに弟分の下から抜け出し、青筋立ててしつこく食い下がるレグルの顔を掴んで遠ざけながら、ソファの背もたれに上体を乗り上げる。
「そいや、ボクらの服ってどうなったの?」
「ホテルのランドリー。受け取りは明日の朝だよ」
「フーン、やっぱこの街に一晩泊まるんだぁ」
「もちろん。何のために部屋を取ったと思ってるんだい?」
「そりゃーそうだけどー。急ぐ旅って感じだったからさー」
「確かにレグル君の友達捜しは「待ったなし」なのかもしれないけど、『薬箱』兼『財布』であるところのおにいさんにもいろいろと都合がありまして。この街でやらなきゃいけないことが山積みでね。それに、君らも少しは休息が必要だろ? さすがに砂漠越えは強行軍すぎたしね。何かご不満かな?」
「全っ然! むしろおにーさんが思った以上にお金持ちで超ラッキィ☆」
「おりゃ別に疲れてねーぞっ!」
 ご満悦のフローリアンとは逆に、レグルは少しむくれてみせる。場の勢いでのことだろう。今でこそつんけんとなんでもないふうを装ってはいるが、バチカルに到着した直後のはしゃぎっぷりときたら見ていてなかなか新鮮だった。未知の都市に興味津々だろうに、己の欲求を圧してでも、なにはともあれとりあえず自身の沽券を回復することに余念のない、まことに厄介な性分の御仁である。アゲイトは生ぬるい微苦笑を返した。
「これは失礼。じゃ、おにいさんの手際が悪いので、明日の朝まで時間がかかるってことにしておいてくださいな」
「実際は違うみてーに言うじゃねぇか」
「気楽な行商人にも束縛がないわけじゃあない。取引先にも面子とか、まあいろいろ事情があってね。大したもてなしもなく日帰りさせちゃ、向こうにとっても都合が悪いんだよ。この立派な部屋だって、僕のお財布からお金を出したってわけでも、あったりなかったり」
「……よくわかんねー話だな」
「……いや、ボクはその取引先とお友達になりたい」
 白けて耳に小指を突っ込むレグルとはこれまた対照的に、フローリアンは神妙な顔でごくりと喉を鳴らした。その両眼は金(ガルド)のように輝いている。
作品名:彗クロ 4 作家名:朝脱走犯